一進一退の和平プロセスで必要な「シナリオ管理力」

執筆者:谷口美代子 2023年5月5日
タグ: 紛争
エリア: アジア
過激派組織「バンサモロ・イスラーム自由戦士(BIFF)」(C)AFP=時事
和平の成立が不確実な状況であっても、先回りして支援を開始しなければ自治政府の設立に間に合わない。そんなジレンマの中で、日本は支援対象の多様化によってリスクヘッジを図り、複数のシナリオを想定して対応策を準備した。結果的に「想定し得る最悪のシナリオ」が現実化したが、日本がそこで踏みとどまって支援の手を緩めなかったことは大きな外交的レバレッジにつながった。

 

 2008年の交戦再発後の膠着状態に風穴を開けたのは、2011年に開催された成田でのベニグノ・アキノ3世大統領とムラド・イブラヒムMILF(モロ・イスラーム解放戦線)議長との初の極秘トップ会談だった。その後、和平の機運が高まり、2012年10月に大統領府とMILFとの間で和平合意の枠組みに達し、2014年3月、包括的和平合意[1]の締結につながった。マレーシアによる仲介、国際コンタクト・グループによる側面支援が奏功した。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
谷口美代子(たにぐちみよこ) 宮崎公立大学教授、早稲田大学アジア太平洋研究センター 特別センター員。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了。博士(国際貢献)。(独)国際協力機構(JICA)平和構築シニアアドバイザーを経て現職。米国国防総省ダニエル・イノウエ・アジア太平洋安全保障センター元研修員。専門分野は、紛争・平和研究、国家建設、東南アジア地域研究(特にフィリピン政治、ミンダナオ)、安全保障など。現在、JICA緒方貞子平和開発研究所にて国際共同研究にも従事。主な著書に『平和構築を支援する―ミンダナオ紛争と和平への道』(名古屋大学出版会、2020年)などがある。第32回アジア・太平洋賞特別賞、第24回 国際開発研究 大来賞など受賞。
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