国際人のための日本古代史 (23)

『古事記』の不思議

執筆者:関裕二 2012年1月31日
タグ: 日本

 わが国現存最古の歴史書『古事記』が編纂されたのは、和銅5年(712)のこと。ちょうど今年は、1300年の節目に当たっている。
『古事記』は日本人の心の故郷と礼讃され、聖典と崇められてきた。だが、冷静に考えると、これほど胡散臭い文書も珍しい。
 そもそも『古事記』は、江戸時代に国学者たちに「再発見」されるまで、ほとんど見向きもされなかった。
 また、もう1つの歴史書『日本書紀』が完成したのは、『古事記』編纂の8年後(720)。藤原不比等が権力の頂点に君臨している間に、2冊の歴史書がしたためられたことになるが、同じ権力者が、2冊の異なる歴史書を必要とするだろうか。しかも奇妙なことに、『古事記』と『日本書紀』は、正反対の外交方針を打ち出している。朝鮮半島南部の新羅(しらぎ)と百済(くだら)という宿敵の双方を、2つの歴史書が、てんでんばらばらに贔屓している。たとえば、新羅にとって都合の悪い事件を『日本書紀』は記録し、『古事記』は無視している。また、新羅系の秦氏の奉祭する神を、『古事記』のみ、神統譜としてかかげている。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
関裕二(せきゆうじ) 1959年千葉県生れ。仏教美術に魅せられ日本古代史を研究。武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。著書に『藤原氏の正体』『蘇我氏の正体』『物部氏の正体』、『「死の国」熊野と巡礼の道 古代史謎解き紀行』『「始まりの国」淡路と「陰の王国」大阪 古代史謎解き紀行』『「大乱の都」京都争奪 古代史謎解き紀行』『神武天皇 vs. 卑弥呼 ヤマト建国を推理する』など多数。最新刊は『古代史の正体 縄文から平安まで』。
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