ブックハンティング・クラシックス (17)

日本人女性の実体験が語る中国“農村荒廃”の真相

執筆者:樋泉克夫 2006年6月号
エリア: アジア

『私は中國の地主だった』福地いま著岩波新書 1954年刊 次々と伝えられる農民暴動が炙りだす農村の荒廃と農民の不満を押さえるためだろう。二〇〇四年、中国政府は古くから農民を苦しめてきた農業税を五年以内に廃止することを明らかにし、〇五年には農業税廃止後に予想される地方政府による無原則で身勝手な徴税を防止する施策を講ずる一方で、農民不満の大きな原因である中央・地方両政府による土地収用方法を改める方針を打ちだした。そして今年三月の全国人民代表大会で、これらを踏まえた農業政策の方向が定まったようだ。 だが農民暴動は増加し拡大化・過激化の道を突き進む。中央政府に農村の惨状を直訴すべく「上訪」と称し、農民は潮のように北京に押し寄せる。その原因を探れば、やはり「地頭蛇」とも呼ばれる地域のボスが地方の党と政府を牛耳り、地方政府そのものが「黒社会化」しているからなのだ。彼らは農村に在って、調和社会の実現を掲げる現政権を嘲笑うかのように徹底して農民を搾取し続ける。いや、彼らにとって胡錦濤が指導する中央政府などあって無きに等しいはずだ。どんな名目でも構わない。税金をむしり取り懐に入れてしまう。農民の土地を勝手に取りあげて売り払う。抵抗は暴力で封殺する。なにせ警察も検察も自己人なのだ。その姿は、毛沢東が農村から抹殺すべきものとして第一に挙げた土豪劣紳そのもの。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
樋泉克夫(ひいずみかつお) 愛知県立大学名誉教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年から2017年4月まで愛知大学教授。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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