病気を治すのは「いのちの力」 (6)

言うは易く行うは難しい「断らない医療」

執筆者:髙本眞一 2015年1月3日
タグ: 日本
エリア: アジア

 先日、17年ぶりに当直をしました。病院長になって、年目のことです。当院では、「断らない医療」を掲げています。しかし、毎日の医事課からの報告書を見ると、患者さんを断っている場合がありました。責任者に聞いてみると、それぞれの事例で、問題がある患者さんだった、あるいは、若手の医師のみに当直が集中しがちで十分なマンパワーを確保できていないために受け入れられなかったなどの説明があるのですが、なんとなく納得がいきません。

「患者さんに問題がある」とは実際にどういうことなのか。マンパワーが足りないのならば、もっと志願者を増やせばいい。救急医療の現場の実態を知るため、若い人に当直が集中している現状に一石を投じるためにも、かけ声だけでなく、自ら率先して当直を行うことを思い立ちました。ここまで読んで、「迷惑な上司だ」と思われる方がたくさんいらっしゃるだろうことは、素直に受け入れます。本当に迷惑だとわかっていましたが、現場を見ずに、物申すのはもっと職員にとっては迷惑だと判断しました。

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執筆者プロフィール
髙本眞一(たかもとしんいち) 1947年兵庫県宝塚市生れ、愛媛県松山市育ち。73年東京大学医学部医学科卒業。78年ハーバード大学医学部、マサチューセッツ総合病院外科研究員、80年埼玉医科大学第1外科講師、87年昭和病院心臓血管外科主任医長、93年国立循環器病センター第2病棟部長、97年東京大学医学部胸部外科教授、98年東京大学大学院医学系研究科心臓外科・呼吸器外科教授、2000年東京大学医学部教務委員長兼任(~2005年)、2009年より三井記念病院院長、東京大学名誉教授に就任し現在に至る。この間、日本胸部外科学会、日本心臓病学会、アジア心臓血管胸部外科学会各会長。アメリカ胸部外科医会(STS)理事、日本心臓血管外科学会理事長、東京都公安委員を歴任。 ↵手術中に超低温下で体部を灌流した酸素飽和度の高い静脈血を脳へ逆行性に自然循環させることで脳の虚血を防ぐ「髙本式逆行性脳灌流法」を開発、弓部大動脈瘤の手術の成功率を飛躍的に向上させたトップクラスの心臓血管外科医。
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