軍事のコモンセンス (4)

「自衛」と「安全保障」(下)

執筆者:冨澤暉 2016年10月21日

 広辞苑で調べると、安全保障という言葉には(1)「外部からの侵略に対して国家および国民の安全を保障すること」(2)「各国別の施策、友好国同士の同盟、国際機構による集団安全保障など」という2つの意味がある。また防衛には、ただ「ふせぎまもること」とだけ書いてあり、「外敵の侵略に対して国家を防衛すること」という意味は「国防」という言葉に付けられている。そして、自衛は「自力で自分を防衛すること」と説明されている。

「安全保障」とは何か

 他方、世界大百科事典では「安全保障とは、個人、建物、社会などの安全を確保するということが本来の意味だが、現在では専らnational security (国家安全保障)の意味で用いられる。17~19世紀にかけての国家間(国際)の政治体制の基本線確立とともに生まれた意識であり、当初の協商・同盟の考え方から1次大戦後の国際連盟、2次大戦後の国際連合等における集団的安全保障の考え方が登場する」(関寛治)と書いてある。
 これらの語彙の意味や説明からすると、安全保障も防衛・国防も元は同じ意味だったようだが、1国だけの防衛ではなく、国際間の政治・外交をも含んだものを安全保障というようになったらしい。世界の広がりに伴って生まれた概念とも言える。
 日本では安全保障・国防・防衛・自衛等というそれぞれ違った意味の言葉を概ね同じものと考え、混同して使用している。しかし、現代の安全保障にあって、国際政治(外交)・経済・環境等の各種手段の重要性が増して来たため、逆に防衛を軍事の意味に特化する傾向も生まれつつある。
 その傾向に従って日本の安全保障は外務省が担当し、防衛(軍事)は防衛省が担当することになっていたのだが、2014年に外務省・防衛省等からの出向者からなる国家安全保障局が発足し、前年に設置された国務大臣等による国家安全保障会議を補佐するようになった。防衛(軍事)が安全保障の重要部分を占めていることに変わりはない。

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執筆者プロフィール
冨澤暉(とみざわひかる) 元陸将、東洋学園大学理事・名誉教授、財団法人偕行社理事長、日本防衛学会顧問。1938年生まれ。防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。米陸軍機甲学校に留学。第1師団長、陸上幕僚副長、北部方面総監を経て、陸上幕僚長を最後に1995年退官。著書に『逆説の軍事論』(バジリコ)、『シンポジウム イラク戦争』(編著、かや書房)、『矛盾だらけの日本の安全保障』(田原総一朗氏との対談、海竜社)。
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