サイバーウォー・クレムリン (5)

延々続く「規制」と「かいくぐり」のイタチごっこ

執筆者:小泉悠 2017年9月12日
エリア: ヨーロッパ アジア
中国・北京のネットカフェでも「VPN」はさかんに利用されているという(C)EPA=時事

 

 1995年にリリースされたWindows95の衝撃を記憶されている方は多いだろう。インターネット接続機能を標準搭載したこのOSの出現によってインターネットが一気に普及し、IT革命なる言葉も流行するようになった。テレビでは連日のようにインターネット時代の到来が論じられ、インターネットは国境をなくすとか、社会の有り様を変革するといった論調が台頭した。

 これは多分に新技術へのユーフォリア(根拠のない過度の期待)のようなものであったが、インターネットが世界を大きく変えたことも確かであろう。筆者が専門とするロシアの安全保障は何かとわかりにくい世界ではあるが、インターネットの普及によってその実相を知る手がかりは格段に増えた。たとえば、かつてであればまず一般の目に触れることのなかった入札情報や兵士たちのSNS投稿は、ロシア国防省の公式発表からは見えない実態を浮かび上がらせることがままある。ロシア国防省が日々発信する公式情報やマスコミ情報も、インターネットの普及によって入手や整理が格段に容易になった。この意味では、インターネットが世界を透明化するという期待は、ある程度まで実現されたと言えるかもしれない。

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執筆者プロフィール
小泉悠(こいずみゆう) 東京大学先端科学技術研究センター准教授 1982年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。民間企業勤務を経て、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員として2009年~2011年ロシアに滞在。公益財団法人「未来工学研究所」で客員研究員を務めたのち、2019年3月から現職。専門はロシアの軍事・安全保障。主著に『軍事大国ロシア 新たな世界戦略と行動原理』(作品社)、『プーチンの国家戦略 岐路に立つ「強国」ロシア』(東京堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(同)。ロシア専門家としてメディア出演多数。
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