国際人のための日本古代史 (103)

「秦氏」の恨み鎮魂の神事だった「猿楽」

執筆者:関裕二 2018年9月7日
タグ: 中国 日本
エリア: アジア
険しい形相は鬼のごとしであった(文化庁HPより)

 

 能楽笛方の第一人者・藤田六郎兵衛(ふじたろくろびょうえ)氏が8月、亡くなられた。訃報に接し、言葉を失った。64歳は、あまりにも若い。

 藤田六郎兵衛氏らが中心となって毎年奈良県吉野郡大淀町で開いておられる能楽座公演が楽しみだった。開演前の慌ただしい中、楽屋を訪ねても、丁寧に対応してくださった。あの穏やかな笑顔が、忘れられない。

 藤田六郎兵衛氏は笛を奏でる瞬間、鬼の形相になる。怨念を抱いた神が憑依したのではないかと思えるほど、恐ろしい顔になる。そして、研ぎ澄まされた音色が、観る者を一瞬で別世界に誘ってしまう。あの、迫力。あの神秘の時間を、二度と味わえないと思うと、じつに寂しい。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
関裕二(せきゆうじ) 1959年千葉県生れ。仏教美術に魅せられ日本古代史を研究。武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。著書に『藤原氏の正体』『蘇我氏の正体』『物部氏の正体』、『「死の国」熊野と巡礼の道 古代史謎解き紀行』『「始まりの国」淡路と「陰の王国」大阪 古代史謎解き紀行』『「大乱の都」京都争奪 古代史謎解き紀行』『神武天皇 vs. 卑弥呼 ヤマト建国を推理する』など多数。最新刊は『古代史の正体 縄文から平安まで』。
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