「君主号」の世界史 (19)

嫌われる皇帝

1897年、在位60年を迎えたイギリスの「女王」にしてインド「皇帝」ヴィクトリア

 

 イングランドは確かに、突出して特異である。しかしそれは当初、必ずしも強盛を保証しなかった。15世紀の半ばにフランスとの百年戦争に敗れ、まもなくイングランド自体の王位を争奪するバラ戦争も起こっては、衰えは隠せない。「帝国」に君臨し、「フランス王」を併称した君主号とは裏腹に、16世紀のイングランドは、なお弱小国でしかなかった。当のフランス国王もハプスブルク皇帝も、歯牙にもかけていない。小国イングランドの大陸に対するコンプレックスは、なお長く続く。

カテゴリ: 政治 社会 カルチャー
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執筆者プロフィール
岡本隆司(おかもとたかし) 京都府立大学文学部教授。1965年、京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。専門は近代アジア史。2000年に『近代中国と海関』(名古屋大学出版会)で大平正芳記念賞、2005年に『属国と自主のあいだ 近代清韓関係と東アジアの命運』(名古屋大学出版会)でサントリー学芸賞(政治・経済部門)、2017年に『中国の誕生 東アジアの近代外交と国家形成』で樫山純三賞・アジア太平洋賞特別賞をそれぞれ受賞。著書に『李鴻章 東アジアの近代』(岩波新書)、『近代中国史』(ちくま新書)、『中国の論理 歴史から解き明かす』(中公新書)、『叢書東アジアの近現代史 第1巻 清朝の興亡と中華のゆくえ 朝鮮出兵から日露戦争へ』(講談社)、『悪党たちの中華帝国』(新潮選書)など多数。
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