風の向こう側
風の向こう側 (50)

米ゴルフ界も声を上げた「プライド月間」日本にも浸透を

執筆者:舩越園子 2019年7月9日
タグ: アメリカ 日本
世界中でLGBTのシンボル「レインボーフラッグ」を掲げた催しが行われる(C)AFP=時事

 

 毎年6月は「プライド月間(Pride Month)」。米国をはじめとする世界各地で、もちろん日本でも、LGBTの人々の権利や文化、コミュニティへの支持を示すさまざまな催しが毎年、繰り広げられる(編集部注:現在は「LGBT」に加え、性自認や性的指向が未定の人も加えた「LGBTQ+」という呼称もあるが、本稿ではLGBTを使用。また、日本ではとくに「プライド月間」ではなく「東京レインボーウィーク」との呼称で各種の催しがあるようです)。

 これは、1969年に米ニューヨークのグリニッジ・ビレッジにある「ストーンウォール」なるゲイ・バーで警察による弾圧が行われた際、LGBTの人々が集団で立ち向かった「反乱」が発端となり、翌1970年以降、年々拡大しているLGBTの権利獲得運動「ゲイ・プライド(LGBTプライド)」の一環だ。

「ストーンウォールの反乱」以降、LGBTの人々は最初のうちは草の根的な小規模な運動を行っていたそうだが、1980年代ぐらいから少しずつ規模が拡大され、2000年に当時の米国大統領だったビル・クリントンが6月を「プライド月間」と宣言。LGBTプライドのシンボルであるレインボーフラッグを掲げるパレードが、全米、いや世界各地で行われるようになった。

 そして、「ストーンウォールの反乱」から50年が経過した今年は、米ゴルフ界でも「プライド月間」を祝うたくさんの「声」が上がった。

「LGBTトーナメント」の開催

「全米プロゴルフ選手権」や「ライダーカップ」を主催し、全米のクラブプロを統括する「PGAオブ・アメリカ」は、この「プライド月間」に積極的な動きを見せた。

 サンフランシスコでは6月26日、2020年「全米プロ」で舞台となる名コース「TPCハーディング・パーク」において「LGBTトーナメント(正式名称「San Francisco Pride Pro-Am Golf Tournament」)」が開催され、プロ24名、アマチュア96名、合計120名ものゴルファーが一堂に会した。

 参加者は1人250ドルのエントリーフィーを払い、そこから得られた1万ドル超の収益が地元のLGBTコミュニティに寄付された。

 この大会の発起人は、サンフランシスコ近郊のゴルフ場でヘッドプロを務めるグレッグ・フィッツジェラルド氏。大学卒業後、地元のゴルフ場でプロショップの従業員として働き始めた同氏は、PGAオブ・アメリカのクラブプロ資格を取得し、アシスタントプロからヘッドプロへと順調に昇格。だが、その間、LGBTであることが周囲に知られたらどうなるのだろうかと常に不安だったそうだ。

 2年前、PGAオブ・アメリカのヘッドプロなど50人ほどが集まった会合の席で、フィッツジェラルド氏は勇気を出してカミングアウトした。

「出席していた全員が『ゴルフは誰に対しても開かれたスポーツ。ゴルフの世界は、もちろんキミを歓迎している』と言ってくれた」

 以来、フィッツジェラルド氏はゴルフ界やゴルフ産業界に身を置いているLGBTの人々が、胸を張り、快適に過ごせる環境づくりに力を注いできた。そして思いついたのが「LGBTトーナメント」の開催だった。

 来年の全米プロ開催コースをこのトーナメントの舞台に選んだこと、それをPGAオブ・アメリカが許可したことが素晴らしい。

 ゴルフを通じて子供たちを育成する団体「ザ・ファーストティ」やBMW、テーラーメイドといった企業が即座にこの大会のスポンサーになり、温かく支援したことも素晴らしかった。

「開かれたスポーツ」の魅力

「ゴルフ界がLGBTの人々にとって、もっと居心地のいい世界になってほしい」

 そう声を上げたのは、PGAオブ・アメリカでシニア・ディレクターを務めるモーリー・ギャラティン氏。子供のころからさまざまなスポーツに夢中になり、「男の子ばかりの野球のリトルリーグに入っていた」という同氏は、「シーズンエンドに男の子たちはみな男の子のフィギュアのトロフィーをもらったのに、私のトロフィーだけは女の子のフィギュアだった」。そういう「差別」や「区別」に長年、心を痛めてきたそうだ。

 ギャラティン氏は、大学卒業後は故郷ミネソタの野球チームの広報を務めていたが、数年前からPGAオブ・アメリカへ転職。ゴルフの世界に身を移した。

 その理由が、とても興味深い。

「ゴルフは、プロのような技術レベルではなくても、たとえ初心者でも下手でも、誰もがゴルフコースで球を打つことができる開かれたスポーツ。それが魅力的だった」

 それがゴルフの本質なのだから、ゴルフの世界は誰に対しても等しく開かれた環境であるべきだし、そうあってほしい。

 そんな願いを込めて、ギャラティン氏は「プライド月間」に声を上げた。

1人の人間として

 将来有望なゴルフ少年として一世を風靡し、米男子ゴルフツアー史上2番目の若さで予選通過した記録も持つタッド・フジカワ(28)が昨年9月、ゲイであることをSNS上で明かし、米PGAツアー選手による初のカミングアウトとして大きな注目を集めた。

 米PGAツアーもUSGA(全米ゴルフ協会)も、すぐさま理解を示す声明をSNS上で発し、とりわけUSGAの声明には、温かい支援の言葉が綴られていた。

「誰もが生涯楽しめる。それがゴルフの素晴らしさだ。ありがとう、タッド・フジカワ。あなたの勇気ある行動は、ゴルフ愛が人々の絆を強めることを、あらためて思い出させてくれた」

 その後、米ツアー選手によるカミングアウトは聞こえてきてはいない。だが、6月の「プライド月間」が終わろうとしていた30日、今度は米メディアのベテラン記者、イーモン・リンチ氏がペンを執り、積年の想いを綴った。

「長年、(女子の)米LPGAはレズビアンの選手たちを両手を広げて歓迎しているが、(男子の)米PGAツアーではゲイはほとんど姿が見えない。しかし、私たちは、存在していないわけではない」

 リンチ氏いわく、自分が選手を取材して記事を書く際に、ゲイであることを「入り口にすることはない」。つまり、取材対象を眺める際は、ゲイであるかどうかではなく、あくまでも「ゴルフ」という観点から眺めるという意味。それが、その選手が「who you are(誰であるか)」を取材し、伝えることなのだとリンチ氏は書いていた。

 逆に言えば、リンチ氏も周囲からLGBTであるという視点から眺められるのではなく、イーモン・リンチという1人の人間として眺めてほしいという主張なのだと思う。

寛容な世界に

 欧米ゴルフ界では、かつては名門プライベートクラブが「女人禁制」を貫くなどの男女差別が見られた。だが、2012年に「マスターズ」開催コースとして知られる米国の「オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ」が女性メンバー受け入れを決めると、2014年には英国のゴルフの聖地「セント・アンドリュース」も「男性オンリー」にピリオドを打ち、他のゴルフクラブも次々に女性に門戸を開いていった。

 前出の「ザ・ファーストティ」は家庭環境、経済的格差にかかわらず、子供たちに等しくゴルフに触れる機会を創出する目的で創設された団体だ。

 身体障害、知的障害を持つ人々がゴルフを楽しめるようサポートする団体は、欧米をはじめ世界各国で続々と創設され、さまざまな活動を広げている。

 今年の全米オープンを制したゲーリー・ウッドランドとダウン症の女子大生ゴルファー、エイミー・ブロッカーセットさんの友情物語が全米でも世界でも大きな感動を呼んだことは前回紹介した(「全米オープン」勝利を導いた「エイミー」の教え 2019年6月21日)。

 年齢や性別、家庭環境や経済事情、障害の有無、そして性的指向にかかわらず、誰もが楽しめるのがゴルフの素晴らしさである。

 リンチ氏は、最後に、こう書いていた。

「しばしば、ゴルフは狭くて寛容性のない世界だと言われる。だが、私はそうは思わない」

 そう、ゴルフは誰に対しても寛容な世界であるべきだ。誰もがそう感じるゴルフ界にしていかなければいけない。

 そして、日本のゴルフ界も、是非とも、そうあってほしいと願う。

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執筆者プロフィール
舩越園子 ゴルフジャーナリスト、2019年4月より武蔵丘短期大学客員教授。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。最新刊に『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)がある。
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