ヤフー「ZOZO買収」で勃発「孫vs.三木谷」IT頂上決戦

執筆者:大西康之 2019年9月14日
タグ: 日本
エリア: アジア
12日の記者会見では孫正義ソフトバンクグループ会長(左。右はゾゾ創業者の前澤友作氏)も登場。場を盛り上げた(筆者提供、以下同)

 

 「ソフトバンク」傘下の「ヤフー」が、衣料通販サイト「ゾゾタウン」を運営する「ZOZO(ゾゾ)」を買収する。宇宙旅行の予約、剛力彩芽との交際など何かとお騒がせなゾゾ創業者・前澤友作の社長退任に注目が集まったが、ヤフーが最大4007億円を投じてゾゾを傘下に収める理由は、ただ1つ「打倒・楽天」である。

 一方、「楽天」も10月以降、自前の通信網を持つ第一種で携帯電話事業に参入し、ソフトバンクグループの収益源に殴り込みをかける。孫正義と三木谷浩史。20年以上、日本のIT業界を引っ張ってきた2人が、ついに正面から激突する。

キーワードは「爆増」

 ヤフーはTOB(株式公開買い付け)を実施し、前澤氏が保有する同社株約37%の大半を含む50.1%の買い取りを目指し、ゾゾを子会社にする。43歳の前澤氏は突然ZOZOを去る理由を、「どうしても宇宙に行きたいから」と説明したが、それは前澤一流の「ストーリー」に過ぎない。

 2018年以降、ゾゾの経営は明らかにうまくいっていなかった。全身を採寸できる「ゾゾスーツ」を無料で配る戦略や、PB(プライベートブランド)商品を増やす戦略、アパレル会社の意向に関係なく一律に値引きする戦略は、長くゾゾを支えてきた有力アパレル・ブランドの離反を招いた。

 また、ゾゾは巨額の借り入れをしているため、株価が下がると担保割れになりかねない。これを危惧した前澤氏は、2018年4月にゾゾ初の中期経営計画を発表して、「10年以内に時価総額5兆円」「グローバルアパレルトップ10入り」とぶちあげた。「前澤フルコミット」と称し、創業者のカリスマ・パワーで難局を乗り切ろうとしたが、それが難しいと悟るやいなや、経営を放り出した。

 それを千載一遇のチャンスと受け止めたのがヤフーである。

 12日の記者会見では、尊敬するソフトバンクグループの孫正義会長に「新しい人生を歩みたい。どうしても月に行きたい」と相談した前澤氏に対し、「それならヤフーと話をしてみたら」と孫が応じたのが、買収のきっかけとの説明がなされた。だが、そんなロマンチックな話で、4000億円もの金が動くことはないだろう。

 顔を合わせるたび孫会長に、「いつ楽天を抜くの」「いつアマゾン(・ドット・コム)を抜くの」とプレッシャーをかけられていたヤフーの川邊健太郎社長は、ゾゾが喉から手が出るほど欲しかったはずである。

ゾゾ買収を発表したヤフーの川邊健太郎社長

 この日、最初に登壇した川邊社長は、ヤフーによるゾゾ買収が、両社にとっていかに有意義であるかを熱弁した。キーワードは「爆増」である。両社の協業で顧客数、取扱高、営業利益を「爆増」させ、「2020年代前半にヤフーの悲願であるEC(電子商取引)日本一に到達したい」とぶち上げた。

 だが日本一への道のりは、そう容易くはない。川邊社長は記者会見で「ヤフー(のEC流通総額)は長らく1兆円前後で停滞していたが、2013年のEC革命を打ち出し、5年で1.87兆円まで成長した」と語った。2018年の実績で流通総額3230億円のゾゾが加わると2兆円を超える。この勢いで「日本一」というシナリオだが、どっこい競争相手も成長している。

 「楽天市場」、「楽天トラベル」、「楽天GORA」、「ラクマ」、「楽天西友ネットスーパー」などを含めた楽天の2017年12月期の流通総額は、約3兆4000億円に達している。「アマゾン」は一切、数値を公表していないが、業界紙などによると、売上高(約1兆5000億円)から推定される2018年の流通総額は約2兆4000億円で、いずれもヤフー・ゾゾ連合を上回っている。ゾゾを買収しただけで日本一になれるほど甘くはない。

 それでもヤフーは動かざるを得ない。同社のROE(自己資本利益率)は2016年から3年連続で低下しており、2019年度第1四半期(2019年4月~6月)のメディア事業の営業利益は前年同期比4.9%減の349億円に落ち込んだ。「爆増」どころではなく「停滞」しているのだ。

新しい技術「完全仮想化」に挑む

 ヤフー単独では国内の広告収入を「爆増」させるのは難しく、「Yahoo!」のネーミングは日本でしか使えないので、海外にも出られない。そこでヤフーはソフトバンクと共同出資で立ち上げた電子決済会社「PayPay(ペイペイ)」のブランドで10月「PayPayモール」を立ち上げる。ECの軸足をヤフーからこちらに移し、あわよくば海外展開を狙う戦略だ。

 問題はPayPayモールの中身である。決済サービスは昨年来の「100億円還元キャンペーン」で一気に知名度を高めたが、そこで何を売るのかよくわからない。そこを埋めるために、やや強引に手当てしたのがアスクルとゾゾだろう。

 川邊社長は今年8月、子会社でネット通販大手「アスクル」にBtoC(消費者向け商取引)事業「LOHACO(ロハコ)」の譲渡を迫ったが、岩田彰一郎社長(当時)がこれに応じなかったため、大株主の権限で岩田氏を事実上、解任した。強引なやり方は「親子上場における上場子会社の少数株主の利益を無視している」などと各方面から批判を浴びたが、裏を返せばそこまでしても、ヤフーはアスクルが欲しかった。記者会見で川邊社長は、「アスクル、ゾゾの他にも輝いているサービスがあれば」と今後の買収に含みをもたせた。

 さらに、PayPayモールが立ち上がる10月、楽天は自前の通信網を持つ「MNO」として携帯電話事業に参入する。本来は東京、名古屋、大阪で本格的にサービスを始める予定だったが、技術的な問題から利用者を大幅に絞った無料サービスとなり、本格参入は来春以降に持ち越された。

 何百万、何千万人のユーザーを相手にするインフラ事業は楽天にとって初めての経験だ。ヤフーがECで簡単には楽天に追いつけないのと同様、楽天の携帯電話事業も当面は試行錯誤が続くだろう。楽天は、専用の通信機器に頼らず膨大な通信データを主にソフトウエアで処理する「完全仮想化」という新しい技術に挑んでおり、初めのうちは様々なトラブルが発生すると思われる。

 だが日本を代表する起業家の孫氏と三木谷氏が率いる両社である。数年もすれば、ヤフーのECも、楽天の携帯電話も様になってくるに違いない。

 そうなると日本人が使うITプラットフォームは、この2社とGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に収斂されていく可能性が高い。プラットフォームとして両社を比べると、通信・メディアではソフトバンク、EC・フィンテック(金融)では楽天に軍配があがる。今後はM&Aを使って、それぞれの弱点をどう補っていくかも見ものである。

 携帯電話のソフトバンクとECの楽天。同じITでも違う道を歩んできた両社だが、ここへきてその軌道が重なった。しかし、本当に大切なのは国内で孫氏、三木谷氏のどちらが勝つかではなく、GAFAに対抗するプラットフォームが日本に残り、海外でも勝ち得るかである。

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執筆者プロフィール
大西康之 経済ジャーナリスト、1965年生まれ。1988年日本経済新聞に入社し、産業部で企業取材を担当。98年、欧州総局(ロンドン)。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員を経て2016年に独立。著書に「起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男」(東洋経済新報社)、「東芝解体 電機メーカーが消える日」 (講談社現代新書)、「稲盛和夫最後の闘い~JAL再生に賭けた経営者人生」(日本経済新聞社)、「ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正」(新潮文庫) などがある。
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