「コロナ対策優等生」ドイツが感染爆発を防げなかった理由

執筆者:熊谷徹 2021年12月3日
エリア: ヨーロッパ
ロックダウンのために人通りが途絶えたミュンヘンの商店街(2021年1月・筆者撮影)
ドイツで新型コロナウイルスの感染爆発が起きている。今年11月上旬以降、新規感染者数が急増し、西欧で最もコロナ禍が深刻な国になった。市民の油断、ワクチン接種率の低さ、ブースター接種の遅延、連邦議会選挙によって生じた権力の空白期間における政府の後手に回った対応が原因だ。

毎日7万人を超える新規感染者

 国の感染症研究機関ロベルト・コッホ研究所(RKI)によると、11月25日には7万6414人という同国で最多の新型コロナウイルス新規感染者が確認された。前週に比べて約2万3000人の増加。最悪の記録が毎日更新されていく。10月1日の新規感染者数は1万934人だった。つまり約2カ月間で約7倍に増えたのだ。

 11月25日の死者数は、357人にのぼった。前週に比べて78%の増加だ。パンデミックが始まってからの累積死者数は10万人を超えた。日本(1万8352人=11月24日時点)の5.4倍である。

 直近1週間の人口10万人あたりの新規感染者数(7日間指数)は11月25日時点で438人と過去最高になった。これはフランス(208人)、イタリア(114人)、スペイン(90人)を大きく上回る数字だ。

 ちなみに私が住むバイエルン州ミュンヘンの7日間指数は、497.6人。東京(0.77人)の646倍だ。デルタ変異株の感染力の強さには、戦慄させられる。

 RKIのローター・ヴィーラ―所長は記者会見で「現在の状態は零時5分すぎだ」と言った。「取り返しのつかない、最悪の事態が起きた」という意味だ。ヴィーラ―所長は、「新規感染者の0.8%は死亡する。つまり5万人が新たに感染すると、その内400人の命が失われる。思い切った措置を取らなければ、我々は悲惨なクリスマスを迎える」と強い言葉で警告した。

「トリアージが必要に」

 ドイツ集中治療・救急医学協会(DIVI)によると、11月25日の時点で同国の集中治療室(ICU)2万2163床の内、89.5%に相当する1万9829床が埋まっており、その内4202床がコロナ重症者の治療に使われている。つまり使用可能なICUのベッドは残り10.5%である。多くの病院では、急患を除いて、コロナ以外の患者の手術を延期せざるを得ない状態に追い込まれている。

 特に旧東ドイツ・ザクセン州の状況は深刻だ。この州では7日間指数が1075人と全国で最悪。重症者の約90%が、ワクチン未接種者だ。ザクセン州ではワクチン接種率が57.8%と全国で最も低い(11月23日時点)。

 ザクセン州のドレスデンではコロナ重症者の急増によりICUの使用率が88.9%、ケムニッツでは95.0%に達している。州全体で空いているICUのベッドの比率は8.8%に落ち込んだ。

 このため同州医師会のエリク・ボーデンディーク会長は、11月22日に「このままの状態が続くと、我が州の病院はトリアージを迫られる可能性があり、そのための準備を始めなくてはならない」というコメントを発表した。トリアージとは戦争や自然災害時に用いられる手法で、医療資源が逼迫した時に、命を救える見込みが高い患者を優先的に治療する。救命の見込みが低い患者は、後回しにされる。去年3月から4月に、イタリアやスペイン、フランスの一部の病院はトリアージを余儀なくされたが、似た状況がドイツにも近づいている。

 このためザクセン州などの病院から約50人の重症者が連邦軍の輸送機やヘリコプターで、北部の病院へ搬送された。ICUのベッドが不足しつつあるバイエルン州の病院からも、イタリアへ重症者が搬送された。去年春にはイタリア北部ベルガモの重症者がドイツへ搬送されたが、今年は逆の状態になっている。医療先進国ドイツにとって異例の事態だ。これらの事実から、この国の医療体制が崩壊の瀬戸際に追い詰められていることがわかる。

ワクチン接種率が西欧で最も低い国の一つ

国民にコロナワクチン接種を呼びかけるドイツ政府のポスター。しかし同国は接種率が西欧で最も低い国の一つだ(筆者撮影)

 ドイツは去年の第1波ではイタリアやフランスなどに比べて死者数を低く抑えることに成功し、「欧州のコロナ対策の優等国」と呼ばれた。その国が、今年はなぜ感染爆発を防げなかったのだろうか。

 その原因はいくつかある。一つは、ワクチン接種の遅れだ。11月24日の時点でドイツの接種率は68.2%。ドイツは接種率が西欧で最も低い国の一つだ。

 イタリア、スペインやフランスは、去年のコロナ第1波で多数の死者を出し、長期のロックダウンが経済に深刻な打撃を与えた。何の備えもなく未知の病原体に襲われたイタリア北部やマドリードでは、病院を中心に急激にウイルスが拡大し、多くの高齢者が次々に命を落とした。イタリア北部のベルガモで遺体の数が火葬場での焼却能力を上回ったため、軍のトラックが長い車列を組んで遺体を他の町に移送する映像は、人々に強い衝撃を与えた。イタリアとスペインで接種率が高い理由は、市民の間でこの恐るべき経験が骨身にしみているからだ。

 ドイツ人たちは去年このような悲劇を経験しなかったので、南欧諸国に比べると切迫感が低かった。今年の夏以降規制が次々に緩められ、ワクチンを2回受けていればクラブ(ディスコ)や映画館ではマスク着用や社会的距離の維持義務も廃止された。レストランやバーは久々に満員になり、一時町にはコロナ前のような活気が戻った。ドイツのウイルス学者たちは今年の夏から、「接種率を80~90%に引き上げなければ、冬に再び新規感染者が急増して危険な状態になる」と警告したが、当時のメルケル政権は対策を強化しなかった。

 これに対し2020年に辛酸をなめたイタリアやフランスは、今年夏から秋にかけて、接種率を引き上げるための厳しい措置を次々に実行した。

 たとえばイタリアのドラギ政権は今年9月に、「全ての就業者に、接種済み、治癒または陰性証明の提示を義務付ける」と発表。10月15日以降、この規則に反する者には出社を禁止し、自宅待機中には給料も支払わないという強硬な措置を取った。ドイツがこの措置を導入したのは11月24日で、イタリアに比べて約1カ月遅れた。パンデミックでは、1カ月の遅れが、大きな違いを生む。

 またフランスのマクロン政権も今年9月15日に全ての介護・医療従事者にワクチン接種を義務付けた。この結果、約3000人が接種を拒否して事実上解雇された。ドイツでは、介護・医療従事者に対する接種義務について議論は行われているものの、本稿を書いている11月26日の時点では義務化されていない。病院関係者らは、医療資源が逼迫している今、接種の義務化により看護師や介護職員の数がさらに減ることを懸念している。さらに政府関係者は、接種を拒否して解雇された従業員が連邦憲法裁判所で違憲訴訟を起こす可能性もあると見ている。

 しかし介護・医療従事者のワクチン接種義務化は、喫緊の課題だ。11月2日には、旧東ドイツ・ブランデンブルク州の介護施設で高齢者11人が新型コロナウイルスに感染して死亡したが、介護職員の約半数がワクチンの接種を受けていなかったことがわかり、政府関係者に強い衝撃を与えた。

ブースター接種も遅れた

 ドイツでは3回目のワクチン(ブースター)の接種開始も遅れている。イスラエルは今年7月に、2回目のワクチンの投与から6カ月を経過した市民に対しブースターの投与を始めた。この結果、11月24日の時点でイスラエルの7日間指数はわずか18人で、ドイツの24分の1に留まっている。

 ドイツ連邦保健省の常設予防接種委員会(STIKO)が、ブースター接種を推奨したのは10月18日。イスラエルより3カ月も遅い。11月22日の時点で人口100人あたりに投与されたブースターの本数はイスラエルが43.6本、英国が22.9本であるのに対し、ドイツでは7.3本と大きく水を開けられている。しかも当初STIKOがブースターを推奨したのは年齢が70歳を超えた市民だけだった。政府は11月になって事態の深刻さに気付き、ブースター投与の対象を、18歳以上の全ての市民に拡大した(2回目の接種から6カ月経過していることが条件)。石橋を叩いて渡るドイツの科学者たちの慎重さが、裏目に出た。STIKOのトーマス・メルテンス委員長は、12月1日にドイツのメディアに対して「イスラエルのデータの分析に時間がかかってしまった。ブースター投与の勧奨が大幅に遅れたのは失敗だった」とミスを認めている。

 

とりわけ接種率が低い旧東ドイツ

 ドイツには、「ワクチン反対者」または「ワクチン懐疑者」と呼ばれる人々がいる。ネット上に流布される「コロナワクチンは、市民をコントロールしようとする政府の陰謀だ」という妄言を信じている人や、薬草などを使う自然療法を重視するために、あらゆるワクチンの投与を拒む人々、ワクチンの長期的な副作用を懸念する人々、あるいは政府のあらゆるコロナ対策を「市民権を抑圧しようとする試みだ」として拒否する人々だ。私の周辺にも、健康上の理由はないのに、いまだに一度もコロナワクチンを受けていない人が何人かいる。

 RKIが11月22日に発表したアンケート調査によると、回答者のうち約8.6%が「ワクチンを打つつもりはない」または「決めていない」と答えていた。ドイツの人口約8200万人にあてはめると、約700万人である。

 ドイツの接種率を引き下げているのは、旧東ドイツだ。この地域では、旧西ドイツに比べて接種率が大幅に低い。ザクセン州の接種率は全国で最も高いブレーメン市(州と同格)より21.9ポイントも低くなっている。ドレスデン工科大学が今年6月に発表した世論調査によると、ザクセン州では「絶対にワクチンを打たない」と答えた人の比率が12%で、全国平均(5%)を大きく上回っていた。

 

 なぜ旧東ドイツでは、ワクチン忌避者の比率が高いのだろうか。その背景には、政治的な理由もある。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持者には連邦政府のコロナ対策に反対する者が多い。彼らは屋内でのマスクの着用やワクチン接種を、「市民の自由を抑制する政府の策略」として拒否する。最近ベルリンの連邦議会議事堂で、AfDの一部の議員たちが議場で義務化されているマスク着用を拒んだために、着席を禁止され、参観者の席に座らされたことがある。

 AfDの支持率は、旧西ドイツよりも旧東ドイツの方が高い。今年9月に行われた連邦議会選挙では、AfDがザクセン州で25.7%、テューリンゲン州で23.7%の得票率を記録し、これらの州で首位に立った。つまり極右政党への支持率と、ワクチン忌避者の比率には相関関係がある。接種率が低いこれらの州では、現在7日間指数が高い傾向にあり、医療資源の逼迫が深刻化している。

社会主義支配が科学への不信感を生んだ?

 興味深いことに、かつてソ連によって支配されていた旧社会主義圏の国では、西欧の自由主義国よりも接種率が低い。次のグラフに示されているように、世界の平均接種率(42.14%)にさえ達していない国もある。

 

 なぜ旧社会主義国では、西欧よりも接種率が低いのだろうか。11月23日付のドイツの日刊紙『フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)』によると、ベルリンのフンボルト大学で歴史学を教えたハインリヒ・アウグスト・ヴィンクラー教授は、旧社会主義国で接種率が低い理由について、次のような仮説を持っている。

 ソ連の影響下にあった時代に、これらの国々の政府は、マルクス主義のドグマを社会科学の一種として市民に押しつけた。社会主義政権は、一党独裁を正当化するために「社会科学」を悪用したのだ。その結果、1990年代のソ連と社会主義政権の崩壊後には、市民の間で科学に対する不信感・敵意が広がった。

 さらにヴィンクラー教授は、ロシア正教会やブルガリア正教会などの多くの保守的な聖職者の間で、近代思想や科学、変革に対する反感があることも、接種率増加の妨げになっていると考えている。身体にワクチンを取り入れることは、神の御業を人間が冒瀆することになるという考え方だ。ヴィンクラーは、ルネサンスや宗教改革、啓蒙思想が、ロシアやルーマニアなど正教会の影響が強い国々ではなく、西欧の国々で起きたことも、東西間で進歩や変革に関する違いがあることの証左であると見ている。

 旧東ドイツは、1945年から1990年までソ連の影響下に置かれた。社会主義政権は市民が党の路線から逸脱することを許さず、政府批判者を厳しく処罰した。社会主義時代の東ドイツでは多くの市民が、生活の糧を得るために政府に服従するふりをしながら、心の底では反感を抱いていた。この経験も、多くの市民の心に政府の指示を鵜吞みにせずに、まず疑う精神を植え付けたのかもしれない。社会主義時代に生まれた、体制に対する猜疑心が、今日政府が勧めるワクチンに対しても向けられているのだ。

権力の空白による対策の遅れ

 ドイツのコロナ対策が大幅に遅れたもう一つの理由は、8~9月に政治家たちが連邦議会選挙に時間とエネルギーを集中させて、「コロナの冬への備え」を軽視したことだ。私は去年と今年の夏から秋の状況を比べて、「今年の政局の中心はコロナではなく、選挙だ」と強く感じた。

 ドイツがコロナ第1波に襲われた2020年3月には、アンゲラ・メルケル首相が異例のテレビ演説で国民に語りかけ、第二次世界大戦後初めてのロックダウンを実施する理由を切々と説明した。「事態は深刻だ。そのことを理解してほしい」という首相の言葉を多くの市民が信じ、他人との接触を制限した。だが今回の第4波では、メルケル首相のテレビ演説、もしくはそれに匹敵する国民へのアピールは行われていない。

 メルケル首相が、今年思い切った行動に出なかったのも無理はない。彼女は、16年間の任期を終えて12月に政界を引退することが決まっているからだ。つまり同首相は、米国の政界で言うところの「レームダック」、足の悪いアヒル=実権のない政治家である。

 退陣間際のメルケル政権にはもはや統率力がないが、ショルツ政権も11月26日の時点では正式に発足していない。社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)は11月24日にようやく連立契約書を完成させた。オラフ・ショルツ首相の就任は12月の第1週になる予定だ。つまりこの三党も、本腰を入れてコロナ対策を指揮する状態にはなかった。つまりドイツは、「権力の空白期」に、コロナウイルスに襲われた。野球の試合で打者が高く打ち上げたボールを、二塁手と三塁手がキャッチしようと駆け寄ったが、2人とも相手が捕球するだろうと考えて、ボールを取り損ねることがある。今のドイツの状態は、これに似ている。

 実際RKIのヴィーラー所長も、「我々は今年夏以来、接種率を高めるように政府に何度も勧告したが、政府は耳を傾けなかった」と批判している。

 一部のジャーナリストは、連邦議会選挙そのものもコロナ対策の強化を妨げたと主張する。経済日刊紙ハンデルスブラットのガボア・シュタインガルト元編集長は、12月1日付のメールマガジンで「政治家たちは、選挙戦の期間中に支持者が減らないように、『冬へ向けて接種率を高めるなどの措置が必要だ』という、国民にとって耳が痛いメッセージを避けた。この結果市民の警戒感が緩み、同国の接種率は低い水準に留まった」と批判した。

 つまり毎日300~400人が死亡している現状の責任は、政府にある。ドイツの公共放送局ARDの記者は、2021年12月1日に「現在のドイツ政府のコロナ対応はDesaster(大失敗)としか言えない。秩序を重んじ効率的なはずのドイツは、一体どこへ行ったのか?」と酷評した。

 もう一つの大きな懸念は、11月9日に南アフリカで検出されたオミクロン変異株である。この変異株は、デルタよりも感染力が強いとされ、世界保健機関(WHO)は11月29日に「この変異株は非常に高いリスクを秘めている」と各国政府に警告した。オミクロン感染者は、アフリカからの渡航者を中心として、ドイツ、イスラエル、英国、日本などで見つかっている。ドイツでもこの変異株への不安が強まっている。

全国的ロックダウン回避を望む政府

 しかも、ドイツ政府は2020年とは異なり、全国規模のロックダウンをもはや実施できない。メルケル政権のイェンス・シュパーン保健大臣のイニシアティブで去年3月に施行された「国家規模の緊急疫病事態」は、今年11月25日に終了したからだ。ショルツ次期政権を構成する3党も、終了に賛成した。

「国家規模の緊急疫病事態」の終了により、全国または州規模のロックダウン、商店やホテルの営業禁止、国内旅行の禁止などは、原則として不可能になった。

 その背景には、去年のロックダウンが経済や学校教育に与えた悪影響が余りにも大きかったという事情がある。つまりドイツ連邦政府は、大規模なロックダウンなしに、経済活動や社会生活を通常に近い状態で続けながら、現在の感染爆発を抑え込まなくてはならない。

 このため各州政府は11月下旬から、クラブの一時的な営業禁止、職場や公共交通機関での3G規則(ワクチン接種者、治癒者またはコロナ検査実施者〔3G〕のみの立ち入りが可能)の導入、映画館、コンサートホール、劇場などへの2Gプラス規則(接種者と治癒者〔2G〕は、接種または治癒証明書だけではなく、抗原検査による陰性証明書も見せなければならない)の導入、テレワークが可能な企業では経営者がテレワークを許可するよう義務づけるなどの措置を実施した。

ミュンヘンのある喫茶店の入り口には、「ワクチン接種者か治癒者のみ、入店できます」と表示されていた(筆者撮影)

 ただし各州政府は、ウイルス拡大が特に深刻な地域については、町や郡単位でロックダウンなどの厳しい措置を実施できる。

 バーデン・ヴュルテンベルク州のシュヴァルツヴァルト・バール郡など3つの郡では、ワクチン未接種者は午後9時~午前5時までは、病院や職場へ行く場合を除いて、原則的に外出を禁止された。これらの郡では、治癒者を除く未接種者は、レストラン、ホテル、商店(食料品店や薬局を除く)を利用することも禁じられる。つまりワクチン未接種者に対するロックダウンである。

 つまりドイツ連邦政府と州政府は、ロックダウンを未接種者に限ることによって、経済や学校教育への悪影響を最小限に留めようとしている。未接種者の生活を不便にすることで、接種を促すことも目的の一つだ。 

次期政権は、接種義務化へ

 12月2日、連邦政府と州政府は感染者数を抑制するために、さらに厳しい措置を取ることで合意した。政府は今年末までに3000万人にワクチンを接種する。法改正によって薬局の従業員や歯科医、介護職員も接種作業に動員する。

 新規感染者の増加速度が特に高い地域では、地方自治体はクラブ、バー、レストランなどの営業禁止を命じる。食料品店や薬局を除いて、商店にも2G規則を拡大し、接種者か治癒者以外は入店を禁止する。ワクチン拒否者には接触制限を実施し、自分の家族以外は2人までしか接触できないようにする。ブンデスリーガのサッカーの試合は、今年末までは無観客で実施する。

 また連邦首相府にコロナ危機対策本部を設置し、連邦軍のカルステン・ブロイヤー少将がロジスティクスを指揮する。同氏はこれまでも連邦軍兵士による病院や介護施設の支援、物資の運搬などを統括した経験を持つ。

 さらにオラフ・ショルツ次期首相は来年2月までに、小児などを除く国民全員に対するワクチン接種義務を法制化する作業を始めることを宣言した。義務化された場合には、接種拒否者は罰金を科される。政府は、「市民の自主的な判断に任せていては、もう接種率は上がらない」と判断したのだ。だが義務化するには、政府が法案を連邦議会に提出し、議員たちが票決で法案を可決させなくてはならない。ドイツでは今後義務化をめぐって、激しい議論が行われるだろう。

 興味深いのは、これまでショルツ氏、メルケル氏や各州政府の首相たちは、一貫して「接種義務を導入しない」と明言してきたことだ。彼らが態度を180度転換せざるを得なかったことは、ドイツの状況がいかに深刻化しているかを物語っている。

 ショルツ政権の最初の仕事は、コロナとの戦いになる。同政権が感染爆発を抑制し、重症者や死者の数を減らすことができるかどうかを、世界全体が注視している。

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執筆者プロフィール
熊谷徹(くまがいとおる) 1959(昭和34)年東京都生まれ。ドイツ在住。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン特派員を経て1990年、フリーに。以来ドイツから欧州の政治、経済、安全保障問題を中心に取材を行う。『イスラエルがすごい マネーを呼ぶイノベーション大国』(新潮新書)、『ドイツ人はなぜ年290万円でも生活が「豊か」なのか』(青春出版社)など著書多数。近著に『欧州分裂クライシス ポピュリズム革命はどこへ向かうか 』(NHK出版新書)、『パンデミックが露わにした「国のかたち」 欧州コロナ150日間の攻防』 (NHK出版新書)、『ドイツ人はなぜ、毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか 』(SB新書)がある。
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