NATO戦略概念を読む(上)――「前方防衛」への転換

執筆者:鶴岡路人 2022年7月20日
エリア: ヨーロッパ
新たな戦略概念は「懲罰的抑止」から「拒否的抑止」へシフト  (C)EPA=時事
今後10年のNATOの行動指針となる「戦略概念」が12年ぶりに改訂された。ロシアを「脅威」、中国を「挑戦」と見なしたことが注目されるが、最も重要なテーマはバルト諸国をいかに防衛するかだった。ロシアによる侵略の際には一時的に退却し、後に解放を目指すのがNATOの方針といわれてきたが、占領を許さない「前方防衛」への移行が示された。そのためには前方展開の強化も必要となり、NATOによる対露抑止・防衛態勢は大きな転換点を迎える。(こちらの後編に続きます)

 NATO(北大西洋条約機構)は、2022年6月29-30日にスペインの首都マドリードで開催した首脳会合で、新たな戦略概念(Strategic Concept)を採択した。これはNATO最高位の戦略文書であり、2010年以来の改訂となった。ロシアを「最も重大かつ直接の脅威(the most significant and direct threat)」と位置づけ、対露抑止・防衛態勢の抜本的強化を打ち出した。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
鶴岡路人(つるおかみちと) 慶應義塾大学総合政策学部准教授、戦略構想センター・副センター長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)など。
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