死刑を廃止した民主国家は「戻らない」――ロベール・バダンテール元仏法相、日本へのメッセージ

執筆者:軍司泰史 2022年11月25日
タグ: フランス
エリア: ヨーロッパ
死刑廃止後、フランスの世論は徐々に変化して行った[バダンテール氏=筆者撮影]
死刑執行の決裁を「判子を押す時だけニュースのトップになる」と冗談交じりに表現した葉梨康弘前法相が更迭された。究極の権力行使に責任を負う者の言葉の、あまりの軽さには唖然とするしかない。だが、そもそも死刑がかくも軽く扱われる根底には、極刑の本質や死刑を巡る世界の潮流について深い議論を避けてきた、私たちの社会の後ろ向きな姿勢があるのではないか。1981年にフランスで死刑廃止を実現し、その後も長年にわたり国際的な廃止運動に取り組む元法相ロベール・バダンテール氏(94)に、日本へのメッセージを聞いた。

   バダンテール氏が死刑廃止運動の闘士となった契機は、弁護士時代に経験したある事件だ。担当した被告が殺人を犯していないにもかかわらず、決定的証拠を法解釈上の理由で無効とされ、死刑判決を受ける。バダンテール氏はこの被告がギロチンで処刑される現場に立ち会った。「私たちは刃が台にあたる鋭い音を聞いた。それで終わりだった」と著書『死刑執行』にその瞬間を描いている。

責任ある政府の高官に求められる役割

 当時、フランスの世論は大半が死刑制度を支持。「死刑もやむを得ない」との声が8割に達する今の日本と似ている。81年、フランソワ・ミッテラン大統領から法相に任命されたバダンテール氏は、死刑廃止法案を国民議会(下院)に提出し、野次と歓声の飛び交う中、後に伝説となる演説を行った。法案は同年10月9日に成立した。

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カテゴリ: 社会 政治
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執筆者プロフィール
軍司泰史(ぐんじやすし) 1961年生まれ。1984年共同通信入社。1993~94年テヘラン、1995~99年、2008~12年パリ支局などを経て、共同通信編集・論説委員。2019年4月から青山学院大学非常勤講師。著書に『シラクのフランス』(岩波新書)、『スノーデンが語る「共謀罪」後の日本 大量監視社会に抗するために』(岩波ブックレット)、編著に『伝える訴える 「表現の自由」は今』(拓殖書房新社)、共訳書にイアン・ブルマ『廃墟の零年 1945』(白水社)がある。
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