バダンテール氏が死刑廃止運動の闘士となった契機は、弁護士時代に経験したある事件だ。担当した被告が殺人を犯していないにもかかわらず、決定的証拠を法解釈上の理由で無効とされ、死刑判決を受ける。バダンテール氏はこの被告がギロチンで処刑される現場に立ち会った。「私たちは刃が台にあたる鋭い音を聞いた。それで終わりだった」と著書『死刑執行』にその瞬間を描いている。
責任ある政府の高官に求められる役割
当時、フランスの世論は大半が死刑制度を支持。「死刑もやむを得ない」との声が8割に達する今の日本と似ている。81年、フランソワ・ミッテラン大統領から法相に任命されたバダンテール氏は、死刑廃止法案を国民議会(下院)に提出し、野次と歓声の飛び交う中、後に伝説となる演説を行った。法案は同年10月9日に成立した。
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