日本人の幻想としての「孫文の美談」「習近平独裁」

執筆者:岡本隆司 2022年12月26日
エリア: アジア
孫文(中央)は毛沢東(左)、蔣介石(右=(C)中華民国総統府)にとっての「革命の父」だった
孫文と志を同じくした宮崎滔天も「命令病」「専制病」が孫文の欠点と断じていた。「民主か、独裁か」という日本の自由民権思想からは当然の批判であり、現代にも引き継がれた感覚だ。だが孫文の「革命」は本来的に、民主集中制という独裁にひとしい。それが美談になることと、習近平の独裁を語ることの間には、畢竟、日本との関わりの良し悪しがあるだけではないのか。

 中国側が日本の悪口を並べるのは、かねて茶飯事的な風景である。言う中国人も言われる日本人も、もはや慣れたものだ。けれども最近は、日本側が中国の脅威を名指しで非難する。これはめずらしい。言う方も聞く方も慣れない感触があるのではないか。

日中の現在と過去

 いわゆる「米中対立」、そしてウクライナ問題のあおりを受けた日中関係の一コマとはいえ、あからさまにここまで険悪な仲になったのも、近年では異例だといえよう。もっとも歴史をさかのぼれば、そんなことはない。

カテゴリ: カルチャー 社会 政治
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執筆者プロフィール
岡本隆司(おかもとたかし) 京都府立大学文学部教授。1965年、京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。専門は近代アジア史。2000年に『近代中国と海関』(名古屋大学出版会)で大平正芳記念賞、2005年に『属国と自主のあいだ 近代清韓関係と東アジアの命運』(名古屋大学出版会)でサントリー学芸賞(政治・経済部門)、2017年に『中国の誕生 東アジアの近代外交と国家形成』で樫山純三賞・アジア太平洋賞特別賞をそれぞれ受賞。著書に『李鴻章 東アジアの近代』(岩波新書)、『近代中国史』(ちくま新書)、『中国の論理 歴史から解き明かす』(中公新書)、『叢書東アジアの近現代史 第1巻 清朝の興亡と中華のゆくえ 朝鮮出兵から日露戦争へ』(講談社)、『悪党たちの中華帝国』(新潮選書)など多数。
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