「岸田の優柔不断」に帰して済ませるなかれ――自民党リベラルの衰退と日米一体化の加速

執筆者:星浩 2023年2月10日
エリア: アジア
「宏池会流リベラル」を立て直せるか[2023年2月10日、埼玉県戸田市](C)時事
話を聞く相手に多様性がなければ「聞く力」も意味はない。「現実主義」と称して熟議と理念の棚上げを続ける岸田政権の優柔不断は、それが首相当人の資質という以上に、安倍長期政権下でリベラル排除が徹底された自民党の保守画一化によって生じている。

   岸田文雄政権の低迷が続いている。2021年秋の発足当初は安倍晋三元首相の庇護の下で動き出したが、その安倍氏が凶弾に倒れ、自民党内の力学は大きく変わった。ハト派・リベラルの宏池会を率いる岸田首相なら、日本政治を新たな局面に導くのではないかという期待もあったが、現実は違った。リベラルの理念は打ち出せず、側近の首相秘書官からは同性婚やLGBT(性的少数者)に対して「見るのも嫌だ」という差別発言が飛び出す。安全保障では、米国との一体化が加速し、防衛力を大幅に増強。その財源確保のための増税に突っ走る。経済の再生も進まない。岸田政権の現状は「自民党リベラル」の衰退を如実に示している。

数の力に押され理念を手放す

   まず、岸田首相の理念である。本人は「リベラル派」「ハト派」を自称してきたが、実態は違う。例えば、リベラル派が推進してきた選択的夫婦別姓問題。岸田氏は首相就任前、自民党内の選択的夫婦別姓を推進するグループに名を連ねるなど支持の姿勢を示してきた。しかし、首相就任後は「慎重に検討すべき課題」と語り、慎重姿勢に転じた。

 LGBTに対して「生産性がない」と述べるなど差別的発言を続けてきた杉田水脈衆院議員を政務官(総務省)に起用したのも、岸田政権が初めてだ。安倍、菅義偉両政権でも杉田氏の政務官への起用は見送られてきたのに、岸田首相は、杉田氏が所属する自民党最大派閥・安倍派の要求に応じた格好だ。22年8月に政務官に就任した杉田氏は、国会で野党の追及を受け、12月には辞任に追い込まれた。

 23年2月初めには、経済産業省出身の首相秘書官、荒井勝喜氏がLGBTや同性婚に関連して、記者団に「隣に住んでいたら嫌だ」「見るのも嫌だ」などと差別発言をした。岸田首相が同性婚をめぐって「社会が変わってしまう」と答弁したことに対し、荒井氏が背景説明した中での発言だったが、岸田首相は荒井秘書官を更迭。首相答弁に問題があったことに加え、秘書官にもリベラルとは真逆の発想の持ち主がいたことが明らかになった。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
星浩(ほしひろし) 1955年福島県生まれ。政治ジャーナリスト。79年東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、自民党、外務省などを担当。ワシントン特派員、政治部デスクなどを経て編集委員、オピニオン編集長、特別編集委員。2016年、退社しTBS系「NEWS23」キャスター、コメンテーター。04-06年、東京大学大学院特任教授。主な著書に『自民党と戦後』『官房長官 側近の政治学』『永田町政治の興亡 権力闘争の舞台裏』など。
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