高成長を続けてきた米テック5強――マイクロソフト、アルファベット(グーグル持ち株会社)、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン・ドット・コム、アップルが、大きな壁に突き当たっている。コロナ後の米経済の構造的変化などで、2023年第1四半期(2022年10~12月期)は各社とも軒並み減収減益を記録。だが、その決算内容とビジネスモデルの変化を仔細に見れば、浮かび上がってくるのはアップルの底力だ。売上高と利益は市場予想に届かなかったものの、競合各社のようになりふり構わぬ大規模な人員削減やコストカットは迫られていない。
その背景には、アマゾンやグーグル、メタのように採算の見込みが低いイノベーションやディスラプション(創造的破壊)の目標達成にこだわらず、過去10年にわたり安定して利益が出せる「メンテナンス経営」を実践してきたティム・クック最高経営責任者(CEO)の先見の明がある。
本稿では、急成長期に事業をむやみに広げて従業員数が増え過ぎたツケを、レイオフ、経費削減や不採算事業の縮小で払うライバルのアマゾンと、破天荒な創立者スティーブ・ジョブズの攻めの経営を捨てたと非難を浴びながらも、安定した収益をもたらすサービス分野を育成し、控えめな採用や節税などで強靭な企業体質を築いたアップルを対比させながら、「ポスト高度成長期」のIT大手に必要とされるビジョンを読み解く。
自らの成長に酔ったアマゾン
米IT業界はイケイケの2010年代に売上・収益ともに驚異の成長を叩き出し、「イノベーションで世界はよくなる」「ディスラプションで生活が一変する」といった夢とワクワク感のあるナラティブ(物語)が盛んに語られた。
そうした時代精神のなか、EC大手アマゾンの最重要市場である米国では、プライム会員数が2013年の推定1700万人から、2021年末に10倍の1億7000万人へ飛躍的に伸びた。この驚異的な成長を背景に、創立者であるジェフ・ベゾス前CEOは、「アマゾンは世界一失敗をする企業だ」「毎日がDay 1(始まりの日)」と公言し、時には奇想天外なプロジェクトを採算度外視で大いに奨励した。
2014年に発売されて大コケし、数億ドルの巨額損失を出したスマートフォンFire Phoneの失敗にもかかわらず、アマゾンはECに革命をもたらしたプライムをはじめ、レジなし店舗、手かざし決済、ドローンやロボットによる宅配、仮想アシスタントのアレクサをはじめ、配送センターの自動化やクラウドのAWSなどで人々の生活に革命を起こすことを目指した。
新型コロナウイルスの流行が始まった2020年からは、巣ごもり需要の急進に対応すべく従業員数を数万人単位で増やし、配送センターや倉庫を次々と建設。永遠に続くように感じられた成長を享受していたアマゾンは、利益還元について株主から「シェアを取るためなら」と大目に見てもらえる特別扱いを受け、経営の拡大に邁進した。
ところが、2022年にコロナ明けの米国で消費の中心がモノからコトへと移る中で……
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。