日本・カタール「関係修復」のカギを握るLNG権力構造

執筆者:村上拓哉 2023年3月8日
エリア: 中東
カタールの権力構造の中心に君臨するタミム首長(C)EPA=時事
 
LNG(液化天然ガス)の長期大口契約の終了が、カタールとの蜜月に水を差したのは2021年11月。エネルギーの安定調達が焦眉の急となったいま、日本は政府をあげてカタールとの関係修復に取り組んでいる。なぜ民間商取引が国家間の問題にまで発展するのか。カタールのLNGをめぐる政治体制・権力構造を繙く。

「率直に言って、カタールがこの(日本という)草分け的な市場の主要なエネルギー供給者でなくなった今、日本が主催するLNGに関する会議で私が講演するのは、ちょっと違和感があります」

 カタールのサアド・アル=カアビー・エネルギー担当国務大臣からこのような発言が飛び出したのは、2022年9月29日にオンラインで開催された第11回「LNG産消会議」の開会セッションでのことだった。同会議は日本がLNGの生産国と消費国との対話・協調を促進すべく2012年から主催しているもので、日本の経済産業大臣の開会挨拶の次にカタールのエネルギー大臣がスピーチするのが恒例だった。

 ところが昨年は、西村康稔経産大臣が開会挨拶を終えると、この10年間の二国間の交誼などなかったかのような辛辣な物言いが冒頭から飛び出したのである。

「裏切り」に映った契約終了

 カアビー大臣の発言の背景にあるのは、日本がカタールと結んでいた長期大口LNG調達契約の終了だ。

 日本がカタールと契約を結んだのは1992年。中部電力が年間400万トンを25年間調達する長期契約をカタール・ガス社と締結し、1997年1月に中部電力の川越火力発電所向けに初めてのLNGの引き渡しが行われた。カタール・ガスは中部電力の本店がある名古屋の東新町から徒歩5分以内にあるNHK名古屋放送センタービル内に連絡事務所を構え、中部電力と蜜月な関係を築いてきた。

 しかし、2015年に中部電力が東京電力ホールディングス傘下の東京電力FP(ヒュエル&パワー)と合弁でJERAを設立し、LNG契約がJERAに移管されて以降、LNG調達先の多角化を進めるJERAとカタール・ガスとの関係は希薄化して……

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執筆者プロフィール
村上拓哉(むらかみたくや) 中東戦略研究所シニアフェロー。2016年桜美林大学大学院国際学研究科博士後期課程満期退学。在オマーン大使館専門調査員、中東調査会研究員、三菱商事シニアリサーチアナリストなどを経て、2022年より現職。専門は湾岸地域の安全保障・国際関係論。
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