「ウクライナNATO加盟」をめぐり米国の議論に見逃せない変化

執筆者:名越健郎 2023年3月10日
エリア: ヨーロッパ

バイデン大統領は副大統領時代にウクライナのNATO加盟を支持する発言を行っている[2月20日、キーウを電撃訪問したバイデン大統領とゼレンスキー大統領](C)AFP=時事

 

 丸1年を経たロシア・ウクライナ戦争は、春から夏にかけての戦況が天王山となり、秋以降は来年の米露両国の大統領選をにらんで、「政治と外交の季節」に入るかもしれない。戦場となったウクライナにとっても、2度目の冬を迎えるのは苦痛だ。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が「今年を勝利の年にする」と何度も強調する背景に、年内に決着を付けたい思惑が透けて見える。

 停戦交渉が行われる場合、最大の難関はロシアが支配する領土の線引きと、戦後のウクライナの安全保障をどう確保するかだろう。

 ロシアの再度の侵略を防ぐには、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟が最も有効であり、NATO加盟論議が今後、浮上しそうだ。

「賛成」に転じたキシンジャー氏

 99歳のヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は1月17日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にビデオ出演し、ロシア・ウクライナ戦争の解決策について、「境界線を開戦前のラインに戻すべきだ」とした上で、ウクライナのNATO加盟が適切だと指摘した。

 キッシンジャー氏は「私は戦争前、ウクライナのNATO加盟に反対していたが、今では加盟が望ましいと考えている。現在の状況では、ウクライナの中立化という考えは意味がない」と述べ、……

来年のNATO首脳会議は米国が主催する。過去には1999年の東欧3国加盟など、米開催の首脳会議で多くの重要決定が下された。ウクライナの加盟が一足飛びに実現に向かう可能性は低いが、早期加盟に消極的なストルテンベルグNATO事務総長の退任も今年9月に控えており、フィオナ・ヒル氏が指摘する「米政府の対応の変化」が注目される。
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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
名越健郎(なごしけんろう) 1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授を経て、2022年から拓殖大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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