政治的なるものとは~思索のための1冊 (9)

歴史という名の法廷へ「陳述書」――『安倍晋三 回顧録』の歴史的な意味(前編)

執筆者:橋本五郎 2023年4月23日
タグ: 安倍晋三
エリア: アジア
発売後は国会でも取り上げられた『安倍晋三 回顧録』 ©時事
通常、日本で首相経験者が本格的な回顧録を出版するのは、退任からかなり後のことだ。中曾根康弘の『天地有情』は首相辞任後10年近く経ってから、『岸信介回顧録』も20年以上後に出版された。安倍晋三元首相へのインタビューは、退任直後、記憶が生々しいうちに行われた。インタビュアーを務めた橋本五郎氏は、その歴史的意味を強調する。

 

 2023年2月8日、『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)が出版された。私と尾山宏読売新聞論説副委員長が聞き手を務め、北村滋前国家安全保障局長が監修したこの書は発売から2カ月あまりで26万部を数え、ベストセラーに連なることになった。安倍政権の歴史的な意味は、133年の日本憲政史上最長の内閣だったというだけでない。国論を二分する諸課題に積極的に取り組みながら、それにもかかわらず、長期政権を維持し得たというところにある。安倍晋三というリーダーが何を考え、どんな戦略を描きながら政治を進めたかを、「親安倍」も「反安倍」も、まず虚心にこの回顧録を繙いていただいて、日本の政治の有りようを考えていただければ幸いである。

 私たちが安倍さんに回顧録出版を申し入れたのは、安倍さんが首相の辞意表明をする1カ月半前の2020年7月のことである。安倍さんの自民党総裁としての任期は翌21年9月までで、それをもって首相を退任する予定だった。そこで、退任後直ちに、回顧録作成のためのインタビューに入りたいと申し出た。これに対して安倍さんは、いとも簡単に「ああ、いいですよ」と応じてくれた。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
橋本五郎(はしもとごろう) 『読売新聞』特別編集委員。1946年秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、読売新聞社に入社。論説委員、政治部長、編集局次長を歴任。2006年より現職。『読売新聞』紙上で「五郎ワールド」を連載するほか、20年以上にわたって書評委員を務める。日本テレビ『スッキリ』、読売テレビ『ウェークアップ!ぷらす』、『情報ライブミヤネ屋』ではレギュラーコメンテーターとして活躍中。2014年度日本記者クラブ賞を受賞。著書に『範は歴史にあり』(藤原書店)『「二回半」読む――書評の仕事1995-2011』(以上、藤原書店)『不滅の遠藤実』(共編、藤原書店)『総理の器量』『総理の覚悟』(以上、中公新書ラクレ)『一も人、二も人、三も人――心に響く51の言葉』(中央公論新社)『官房長官と幹事長――政権を支えた仕事師たちの才覚』(青春出版社)など多数。
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