G7広島サミット「多様な道筋」が示す「グローバルサウス」への戦略的配慮
5月19~21日、主要先進7カ国首脳会議(G7サミット)が広島で開催された。ロシア・ウクライナ戦争が長期化し、先行きが混迷を深める中、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が広島を電撃訪問したことから、ウクライナ情勢が最大の関心事となり、世界的にも大きな注目を集めるサミットとなった。また、被爆地広島での開催ということもあって核軍縮が最重要議題として取り上げられ、首脳間の議論の中心となった。
しかし、G7サミットが取り上げるべき世界規模の課題としては、ウクライナ危機後に一気に不安定化した国際エネルギー情勢を踏まえたエネルギー安全保障問題や、気候変動対策と脱炭素化への取組み強化も、今回の主要テーマであった。以下では、G7広島サミットを振り返り、その中で、特に重要と思われるエネルギー・気候変動分野における成果・合意について、筆者としての整理を行ってみたい。
「国家戦略」が世界を左右する時代に
まず前提として、G7広島サミットを取り巻く国際情勢全般を理解するキーワードが「世界の分断」であったことを指摘したい。ロシアによるウクライナ侵攻によって、「米中対立」が「西側と中ロ」の2軸の対立へと深化する中、サミットでは、中国とロシアを意識したG7の連携強化がこれまで以上に重視されることになった。さらに、2軸に属さない第3極の主要国を巡る綱引きが世界的に展開される中、第3極を表す象徴的な言葉としての「グローバルサウス」との連携を追及する戦略が取られた。世界規模の課題に対して、G7の連携、そしてG7とグローバルサウスの連携に取り組む姿勢が明示されることになったのである。
また、世界の分断の深刻化が、安全保障重視へのシフトをもたらす大きな潮目の変化となっている点も忘れてはならない。世界の分断が深刻化する以前は、自由貿易と国際分業による最適効率とコスト最小化が追求されるべき原則であったが、分断によって、安全保障のための追加的コストが許容され、最適効率からの乖離が発生することになる。
その一環でエネルギー安全保障および経済安全保障が喫緊のテーマとして意識され、エネルギーやクリティカルミネラルなどの戦略物資、さらには戦略的に重要な技術については、可能な限りの国産化と同盟国・戦略的連携パートナーとの間でのサプライチェーンの構築を図る努力が行われている。そして、これらの取り組みに当たっては国家が前面に出ることになり、まさに国家戦略が世界を左右するメインファクターとして浮上するに至っているのである。
「多様な道筋」が正式合意されたことの意義
さて、こうした「前提」に立って、G7広島サミットにおけるエネルギー・気候変動分野での成果を考えてみたい。サミットの首脳コミュニケにおいては、全体の4分の1強に当たる紙幅がエネルギーや気候変動問題に割かれ、別途、「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」が個別に出されるなど、サミットにおけるエネルギー・気候変動問題重視の姿勢は明らかである。その理由は、エネルギー安全保障や脱炭素化それ自体が現在の世界情勢において極めて重要であることに加え、この問題への対処が、世界の分断に対応したG7の連携とグローバルサウスとの連携強化という面でも大きな意味を有していたからである。
合意の内容に関しては、まず首脳コミュニケで「エネルギー安全保障、気候危機及び地政学的リスクに一体的に取り組む」ことが明記されていることが注目される。まさに、上述してきた国際情勢を踏まえた取り組みの決意が示されたものといえる。そして、この「一体的な取り組み」の遂行にあたって、「多様な道筋」があることをG7首脳がコミュニケにおいて正式に合意したことが重要である。
「多様な道筋」とは何か。
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