*会田弘継氏と藤本龍児氏の対談をもとに編集・再構成を加えてあります。
「アメリカニズム」とは何か
会田弘継(以下、会田) 本日は帝京大学准教授の藤本龍児さんに来ていただきました。藤本さんは博士論文を書籍化した『アメリカの公共宗教:多元社会における精神性』(NTT出版)という本で衝撃的なデビューを飾られ、その後も堅実な研究を続けておられます。一昨年、『「ポスト・アメリカニズム」の世紀:転換期のキリスト教文明』(筑摩書房)という本を出版されましたが、この本は現代のアメリカを考える上で、非常に重要な本だと思います。
「ポスト・アメリカニズム」とは一体何なのか。また、いわゆる保守主義が「ポスト・アメリカニズム」とどのように関係するのか、いろいろとお話を伺いたいと思います。
藤本龍児(以下、藤本) 20世紀はアメリカの世紀だったと言われます。大量生産・大量消費、いわゆる「フォーディズム」によって豊かになったアメリカ社会は、現代文明のモデルとされました。アメリカから大量のモノが輸出されると同時に、モノにあふれるアメリカの生活様式も輸出された。そして、アメリカ的な「自由(リベラリズム)」や「民主主義(デモクラシー)」という価値観もあわせて普遍的なものとなっていきました。
「20世紀のアメリカニズム」は、リベラル・デモクラシーとフォーディズムで構成され、世界に広がっていったのです。
「アメリカ覇権」に突き付けられた疑問
藤本 20世紀も終わりに近づき、ソ連の崩壊で米ソ冷戦が終結すると、アメリカが唯一の超大国として世界の覇権を握る時代が訪れます。グローバリズムの流れが強まり、アメリカニズムが世界を席巻しました。
しかし、21世紀に入ると、逆にアメリカニズムへの疑問が次々に生じます。
いわゆる9.11(アメリカ同時多発テロ事件)や、リーマン・ショック、ブレグジット(英国のEU離脱)、トランプ現象など、リベラル・デモクラシーの後退とも取れる事態も相次ぎました。
2021年の米軍のアフガニスタン撤退、2022年のロシアのウクライナ侵攻も、アメリカニズムの頓挫を強く印象づける出来事でした。
そのうえ、コロナ後の世界では、リベラリズムより自国第一主義のほうが目立っています。世界各国はコロナ対策としてロックダウンを実施しましたが、これは自由の制限によって安全を確保する動きでした。安全安心のためには、国家による監視や管理体制を強化してもいいと考える、さらにはそれを求める、という傾向が強まっています。
しかも、それを民衆が望む、つまりデモクラシーが自由を抑制せよ、と要請しているわけです。そうしたところにアメリカニズムの矛盾が浮かび上がってきています。
宗教への注目が高まる
藤本 このようにリベラル・デモクラシーという理念が根底から問われはじめていますが、同時に、それとは違う考え方をもっているはずの保守主義のほうにも揺らぎが生じています。
冷戦後は、リベラル・デモクラシーが普遍化していく、というフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」の見方が広がっていきました。この世界観は、ネオコンにも共有されています。それに対してサミュエル・ハンチントンは、「アイデンティティ」や「文明」という概念を重視して「文明の衝突」論を展開しました。これは、リベラル側からはずっと忌避されてきたのですが、近年になって見直しが活発化しています。
また、リベラル・デモクラシーの機能不全を埋める存在として、宗教への注目も高まっています。
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