
1月26日に開会した第213通常国会は異例な形でのスタートとなった。
普段なら最初に総理大臣が今年1年の施政方針演説を行い、与野党の代表がそれに対して質問する論戦から始まる。しかし今国会では施政方針演説の前に衆参の予算委員会での集中審議が行われた。なぜか。言うまでもなく、去年の暮れから年明けにかけて永田町を席巻した、自民党安倍派をはじめとする派閥パーティーの裏金事件に対する説明を野党側が強く求め、岸田文雄総理や自民党側としても無下にできなかったからだ。
“自ら身を処せ”迫る茂木幹事長に安倍派幹部が反発
「党の役職停止ではすみませんよ。しっかりと出処進退を考えて欲しい」
今月19日に安倍派が解散を決めたその直後、自民党の茂木敏充幹事長は安倍派座長の塩谷立衆院議員に対して、派閥幹部の責任について自分たちで決めろと迫った。
萩生田光一前政調会長の2728万円を筆頭に、安倍派では“5人衆”と呼ばれる幹部らが多額のキックバック等を政治資金収支報告書に記載していなかったことが判明した(萩生田氏以外の5人衆の不記載の金額は、世耕弘成前参院幹事長1542万円、松野博一前官房長官1051万円、高木毅前国会対策委員長1019万円、西村康稔前経済産業大臣100万円)。党内からはこうした安倍派幹部への厳しい処分を求める声が高まっている。
「刑事処分を受けなければそれですむというわけではない。“銀座3兄弟”は離党勧告を受けて離党した。それぐらいの処分が妥当だ」(自民党関係者)
自民党内では3年前、コロナ禍で緊急事態宣言が出されていたにもかかわらず銀座のクラブに通っていたことが発覚した松本純元国家公安委員長ら3人が、離党勧告を受け離党した。安倍派の幹部に対しても少なくとも同等の処罰を求める声がある。茂木氏もこうした党内の空気を伝え安倍派幹部らに「自ら処するよう」促す意向だが、その思惑は大きく狂い始めている。
「もし自分たちが離党するのであれば同様に立件された二階派や岸田派はどうするんだ」
安倍派幹部の一人は茂木幹事長の動きに憤りを隠さない。確かに今回の裏金事件で立件されたのは安倍派にとどまらない。二階派の会計責任者は在宅起訴、岸田総理が昨年12月まで会長を務めていた岸田派も元会計責任者が略式起訴された。特に二階派では会長の二階俊博元幹事長の秘書が3500万円余りのパーティー収入を派閥に納入せず、二階氏の資金管理団体の収支報告書に移したにもかかわらず記載していなかった(つまり“中抜き”していた)として略式起訴された。
安倍派幹部が主張するように、安倍派を処分するのであれば二階氏をはじめとする二階派幹部や、場合によれば(虚偽記載の金額は3000万円と安倍派、二階派と比べれば少ないものの)岸田派の会長であった岸田総理の責任も問われることになりかねない。
岸田VS茂木の戦いが始まった
「自民党として説明責任、政治責任、これを果たすためにどうあるべきか、聞き取り調査を進めて行きます」(29日衆院予算委員会)
キックオフとなった衆議院の予算委員会の“政治とカネ”についての集中審議で岸田総理はこのように答弁した。野党の立憲民主党の議員からの質問に対する答弁なだけにいささか表面的な回答になっているが、岸田総理の考えはこの答弁に凝縮されている。つまり岸田総理としては、自民党として裏金問題について実態解明を行うため安倍派幹部ら裏金を受けた当事者から聞き取りなどを行い、その上で処分するかどうか判断したいという考えを示したものだ。離党などの対応について「自ら考える」ことを求めた茂木氏とは温度差が見える。
「岸田総理としては高みの見物なんだろう。政敵の茂木幹事長と“目の上のたんこぶ”的存在だった安倍派幹部がいがみ合えば双方力を失い、自分に火の粉は降りかかってこないという腹積もりだ」(自民党ベテラン議員)
岸田総理と茂木幹事長の間に“すきま風”が吹き始めて久しい。
去年9月の自民党役員人事・内閣改造の時、岸田総理は茂木幹事長を更迭することを一時検討した。自民党の最高幹部職員で党のカネを一手に管理する元宿仁事務総長が茂木氏の更迭を進言したのも一つの理由だが、“ポスト岸田”を意識する茂木氏が岸田総理の意図しない形で、政策面などで様々に発信することに不快感を示していたという。
「それまた茂木さんが言っているんだろ」というのが岸田総理のひと頃の口癖だったと岸田周辺は明かす。険悪な関係だった両者が決定的に決裂したのが、1月18日夜の岸田総理の発言だった。

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