イスラエル「ハアレツ」編集長が綴った絶望

Foresight World Watcher's 5Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2024年2月10日
国民はネタニヤフの責任を免じていないが、和平を追求する左派も「ほぼ絶滅」と「ハアレツ」紙編集長は指摘[政権に抗議するデモ=2024年1月20日、イスラエル・テルアビブ](C)EPA=時事

 今週もお疲れ様でした。しばらく前から観測報道が出ていたとはいえ、ウクライナで国民的な人気を得ていた軍トップのワレリー・ザルジニー総司令官が2月8日に解任されたニュースは、大きな波紋を広げています。昨年夏から秋にかけての反転攻勢が成功しなかたことの責任を問われたとも、そのカリスマ性から政治的ライバルとなることをヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が警戒したとも伝えられますが、当編集部で探す限り、まだそれ以上踏み込んだ論考は海外メディアにも少ないようです。

 後任となるオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官はザルジニー氏よりも8歳年長(58歳)、ウクライナ軍を欧米式に変革したザルジニー氏とは対照的に「旧来型の軍人」と評されます。ゼレンスキー大統領はシルスキー氏の任命にあたって、22年秋のハリコフ北東部での反撃を成功させたことなどを功績として挙げましたが、米ワシントンポスト紙などによると多数の命を犠牲にすることを厭わない「ソ連風」の指揮から「butcher」と呼ぶ兵士もいるとのこと。また、ウクライナの政治に大きな影響力を持つとされるアンドリー・イェルマーク大統領府長官に近いともされています(イェルマーク長官については、下に関連記事を挙げておきます)。

 もう一点気になるのは、ザルジニー氏が戦況の膠着を打開するには軍事的な最新技術が必要だと一貫して唱えてきたことです。昨年11月頃には同氏とゼレンスキー大統領の関係悪化は決定的になっていたともされますが、ちょうどその頃に英エコノミスト誌が行ったインタビューでも、ウクライナに最新の軍事技術と武器を供与することに二の足を踏む西側諸国への苛立ちも滲ませつつ、テクノロジーの重要性を訴えています。アメリカが依然としてウクライナへの追加支援に動けぬ中で、この軍トップ交代がどのような含意を持つのかも注目されるところでしょう。

 ウクライナについては次回への継続課題として、今週はガザ情勢などに関する論考をピックアップします。イスラエル「ハアレツ」紙編集長が米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」に寄せた長大なメッセージは、まさに必読だと思います。

 フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事、皆様もよろしければご一緒に。

Israel's Self-Destruction【Aluf Benn/Foreign Affairs/2月7日付(雑誌版3・4月号掲載予定)】

Gazans Fled Their Homes. They Have Nowhere to Return to【Haaretz/Yarden Michaeli, Avi Scharf/2月8日付(随時更新の可能性あり)】

 米アントニー・ブリンケン国務長官が仲介したハマスからの停戦提案をイスラエルが受け入れなかったことにより、パレスチナでの戦闘は休止あるいは終止からまた遠のいた。イスラエルのリベラル系有力紙「ハアレツ」の編集長であるアルーフ・ベンは、近く発行される米「フォーリン・アフェアーズ」誌3・4月号に「イスラエルの自己破壊」を寄せ、自らの国への絶望を綴っている(同誌サイトに2月7日付で先行公開)。

「10月7日はイスラエル史上最悪の厄災だった。イスラエルに住む者、イスラエルに関わる者にとって、国家的、個人的な転機となった。ハマスの攻撃を止められなかったイスラエル国防軍は、圧倒的な武力で応戦し、何千人ものパレスチナ人を殺害し、ガザの住民の居住区全体を破壊した。しかし、[中略]イスラエル政府はテロを生み出した敵意や、次のテロを防ぐための政策について考えていない。その沈黙は、戦後のビジョンや秩序を示そうとしないベンヤミン・ネタニヤフ首相の意向によるものだ」
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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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