
深刻度を増す「ガザ危機」は、とどまるところを知らない。ガザにおける人道的惨状が深刻であることは、言うまでもない。加えて、国連安全保障理事会、国連総会、国際司法裁判所、そして国際刑事裁判所で、ハマスのみならず、イスラエルに批判的な内容の決議・命令等が繰り返し発出されている。しかし当事者は全く受け入れる様子がなく、軍事行動が続いている。
この状況で、日本外交は、困惑しているように見える。もちろん日本にできることは限られている。「危機」が解決されないことは、日本のせいではない。ただそれにしても、「危機」に狼狽している様子は、今後の日本外交に否定的な影響を与えていく恐れがある。
日本政府の立場は曖昧だ、と言われる。あるいは、日本の外交姿勢は揺らいでいる、とも言われる。それが問題だ。日本外交には戦略的な一貫性が欠如しているという評価が国際的に固まると、どうしても日本の国際的立場は弱まっていく。現状分析を怠らず、将来への布石を構想している姿を、世界に見せていく方法を考えるべきだ。
「法の支配」原則の曖昧性
「ガザ危機」に直面した後の日本の外交姿勢の最大の問題は、原則的な立ち位置が揺らいでしまったことだ。2022年ロシアのウクライナ全面侵攻以降、日本は「国際社会における法の支配」の重要性を掲げている。日本にとっては珍しいロシアに対する制裁と、多大なウクライナへの支援を続けている。23年5月のG7広島サミットの際には、「法の支配」の重要性を訴えつつ、「グローバル・サウス」に共鳴者を増やしていくことを目標として打ち出していた。
22年、23年と国連総会に提出されたロシアの侵略行為を非難する決議には、141カ国が賛同した。ロシアへの非難については、多数の諸国の同意があった。それをG7が採用してきた政策への協力につなげていけるかが、日本外交の課題であった。
G7サミットから一年が経つが、日本を中心とするG7諸国の試みは、功を奏していない。それどころか、24年になって大幅に票を減らすことを嫌って、国連決議案が提出されなくなったことからもわかるように、日本を中心とするG7諸国の国際世論工作は、不調だ。
日本の目論見では、ロシアの侵略は、国連憲章違反であり、「国際社会における法の支配」の観点から、普遍的に非難されるべき問題だった。ところが、それにしても、トルコ、インドネシア、南アフリカなどの非欧米圏の有力国の和平調停の試みを、ウクライナ及びその支援国が迷惑がるような素振りを見せる中で、ロシア・ウクライナ戦争の構図が、あまりにも「アメリカの同盟諸国vs.ロシア」で固まってしまった。ロシアへの非難が、アメリカとその同盟国による戦争継続の政策と同義であるとすれば、他の諸国は、もうただ、不要な対立に巻き込まれなくない、と考えるしかない。
不当な領土侵攻の解決には、軍事力による奪還以外の方法はなく、交渉による解決の可能性は否定して、戦争を続けなければならない、というアプローチは、世界のどの地域でも見たことがない。「法の支配」を唱えながら、二年以上にわたって、唯一の解決策はただ軍事力による敵の駆逐だけである、という姿勢を取り続けるのは、非常に特殊だ。
この「二重基準」は、「ガザ危機」によって劇的に明らかにされてしまった。

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