オペレーションF[フォース]
オペレーションF[フォース] (70)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第70回

執筆者:真山仁 2024年6月22日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)EPA=時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】北朝鮮のミサイル迎撃に成功したその日。磯部と樋口は祝杯を上げながら、都倉大臣への信頼と不安を語り合う。暁光新聞の草刈は、財界の重鎮の発言に戸惑っていた。

Episode6 一世一代

 

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 “日米安保で最も恩恵を受けた財界が、率先して防衛費増のために義務を果たさなくてはならない。だから、政府は赤字国債などに頼らず、法人税を上げるべきだ。

 心ある経営者を募り、財界の総意として、総理に法人税増をお願いしようと思う“

 そこまで書いて、草刈の手が止まった。

 きれい事過ぎる。「財界の総理」と呼ばれた五條良朔の提言として、一定のインパクトはある。しかし、これでは引退した老財界人の放言に過ぎないのではないか。

 そもそも五條の発言を、そのまま真に受けていいのだろうか。

 著名人の発言には、意図がある。

 ましてや今回は、五條本人から売り込まれたものだ。

 暁光新聞とすれば、財界に隠然たる影響力を有する大物の単独インタビューを掲載できるのだから、大歓迎だろう。

 だが、草刈は取材が決まった時から、五條の意図に若干の不審を抱いている。

 防衛費増をめぐる現状を憂い、良識ある財界人としてとるべき立場をアピールしたければ、保守系の東西新聞などにとりあげられた方が大きな影響を及ぼせる。

 なのに、そもそも防衛費増に批判的な立場の暁光新聞を名指ししたのはなぜなのか……。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 小説家 1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な裏側を描いた『ハゲタカ』でデビュー。同シリーズはドラマ化、映画化され大きな話題を呼んだ。『マグマ』『ベイジン』『黙示』『売国』『ロッキード』『当確師 正義の御旗』など著書多数。最新刊『アラート』は「日本の未来を守る」ための安全保障がテーマの長編ポリティカル・フィクション。
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