
(C)EPA=時事[写真はイメージです]
【前回まで】北朝鮮のミサイル迎撃に成功したその日。磯部と樋口は祝杯を上げながら、都倉大臣への信頼と不安を語り合う。暁光新聞の草刈は、財界の重鎮の発言に戸惑っていた。
Episode6 一世一代
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“日米安保で最も恩恵を受けた財界が、率先して防衛費増のために義務を果たさなくてはならない。だから、政府は赤字国債などに頼らず、法人税を上げるべきだ。
心ある経営者を募り、財界の総意として、総理に法人税増をお願いしようと思う“
そこまで書いて、草刈の手が止まった。
きれい事過ぎる。「財界の総理」と呼ばれた五條良朔の提言として、一定のインパクトはある。しかし、これでは引退した老財界人の放言に過ぎないのではないか。
そもそも五條の発言を、そのまま真に受けていいのだろうか。
著名人の発言には、意図がある。
ましてや今回は、五條本人から売り込まれたものだ。
暁光新聞とすれば、財界に隠然たる影響力を有する大物の単独インタビューを掲載できるのだから、大歓迎だろう。
だが、草刈は取材が決まった時から、五條の意図に若干の不審を抱いている。
防衛費増をめぐる現状を憂い、良識ある財界人としてとるべき立場をアピールしたければ、保守系の東西新聞などにとりあげられた方が大きな影響を及ぼせる。
なのに、そもそも防衛費増に批判的な立場の暁光新聞を名指ししたのはなぜなのか……。

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