オペレーションF[フォース] (73)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第73回

執筆者:真山仁 2024年7月13日
タグ: 日本
エリア: その他

(C)AFP=時事[写真はイメージです]

国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】江島元総理らが待つ上野の料亭に向かう車中で、都倉防衛大臣は中国国家安全部の劉唯から極秘裡に呼び出される。都倉は米国防長官との会談を翌週に控えていた。

Episode6 一世一代

 

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「キョーコの英断に乾杯!」

 持参したルイナール ブラン ド ブラン ブリュットを、フルートグラスになみなみと注ぎ、劉唯は都倉に向かってグラスを掲げた。

 喉が渇いていたこともあって、爽やかな果実の味が染みた。

「日本にも、ようやく本物の防衛大臣が登場して、私は本当に嬉しい」

 中国にとっては「厄介」なはずだが、ウェイウェイは、心の底から喜んでいるようにしか見えない。

「ハト派を自任してたのに、今日ですっかりタカ派にされてしまったのは、辛いけどね」

「あら、ハトよりタカの方が、私は好きよ。それに、軍事行為を行わないのが平和主義者だなんていうのは、お花畑のアホな理想主義でしょ。

 平和は、適切な武力による抑止力と外交力があってこそ守れるのよ。日本は、ようやくその第一歩を踏み出した。あなたは、日本の歴史に新しい1ページを加えたと自負しないと」

 ウェイウェイにかかると、すべて彼女の言うとおりに思えてしまうから不思議だ。

「そんなこと言っていいの? 中国外交部は、今回の迎撃に対して、遺憾の意を表明しているでしょう」

「それは当然。隣国の武力行使を黙認するわけにはいかないからね。だからこそ、日本は、それに対抗できる外交力を持たないと」

 同感だが、実現は難しい。今に至るまで、外務省は公式見解を発表していない。

「ところで、希宝からの伝言がある」

 ついに、来たか。

 いよいよ面倒な事態に巻き込まれるのだろうか。

「まずは、お祝いの言葉。

 さすが、キョーコだ! 君はいつも有言実行の人だったのを改めて思い出した、ですって。今日のこのルイナールも、彼からの贈り物なの」

 ならば、飲みたくなかった。

「別に賄賂じゃないから、そんな顔しないで。旧友からの祝福なんだから、ちゃんと飲み干してあげようね。

 で、彼のメッセージ。来週から始まるアメリカ国防長官との会談を頑張れ――」

 驚きを隠せなかった。そして、じわりと脳内を恐怖が駆け巡った。

 中国の情報網を考えれば、知っていて当然かもしれない。だが都倉自身も、一昨日突然、官房長官から言い渡されたばかりで、未発表なのだ。

 それを、既成の事実として話されるとは。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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