Weekly北朝鮮『労働新聞』 (92)

「米日韓」の“三角軍事ブロック”に金正恩が初めて言及(2024年11月17日~11月23日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年11月25日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
朝露政府間の貿易経済及び科学技術協力委員会の第11回会議に出席したロシアのコズロフ天然資源環境相(左)と北朝鮮の尹正浩(ユン・ジョンホ)対外経済相(右)[2024年11月20日、北朝鮮・平壌](C)AFP=時事
金正恩国務委員長が「米日韓」について初めて言及し、3カ国の軍事的な協力が「NATOの犯罪的行為」を連想させると語った。ロシアへの派兵には直接触れていないものの、こうした発言は朝露間の軍事協力が重要だとのロジックにもつながる。米大統領選のトランプ勝利について報道はないが、金正恩が「武装装備展示会」開幕式で行った演説で、「侵略的で敵対的な対朝鮮政策」が変わらない現状では米朝交渉の再開は不可能だとの主張が再確認された。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】
 

 金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の動静報道が目立つ1週間となった。軍事力の強化、対露関係の重視、地方経済の振興といった核心的な政策が凝縮された印象である。

 11月18日付は、金正恩が第4回大隊長、大隊政治指導員大会で演説したことについて3ページ半にわたって報じた。演説では「日本」を単独で名指ししてはいないものの、「米日韓」に対して4回もの言及があった。

「朝鮮半島を含むアジア太平洋地域の平和と安定を脅かしている重大要素である米日韓の三角軍事ブロックが、自らの脅威的な性格をいっそう鮮明に表しています」「排他的な軍事ブロック強化と立て続けの戦争実動演習によって朝鮮半島地域の戦略的環境を段階的に破壊している米日韓の憂慮すべき動きは……NATOの犯罪的行為を連想させます」といった内容である。

 金正恩による「米日韓」への言及が確認されたのは今回が初めてであるが、7月8日付に掲載された金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会副部長の談話では、「米日韓の初の多領域合同軍事演習『フリーダムエッジ』は反共和国対決狂乱の極致」であるとの批判が展開されていた。

 今回の金正恩演説でもロシアへの派兵について触れられることはなかったが、「米日韓」をまとめて非難することは、朝露間の軍事協力が重要だとのロジックにもつながる。金正恩が、「戦争はけっしして他人事ではなく、遠い将来のことでもない」「われわれは、米国と西側諸国がウクライナを突撃隊として打ち立てて展開しているロシアとの戦争を徹頭徹尾、実戦経験を積んで、軍事的介入の範囲を全世界へと拡大するための戦争だと見なすべきです」などと述べたことも紹介された。

 19日付は、金正恩がロシアのアレクサンドル・コズロフ天然資源環境相に接見したとの報道であった。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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