
少数与党となって初めての補正予算審議に臨んだ石破茂政権だったが、これまでの流れを見ると順調に進んでいる。その大きな要因は、国民民主党を野党側から実質切り離すことに成功したためだ。
記者「連立政権入りはないという理解でよいか?」
玉木雄一郎代表「ありません。私達が欲しいのはポストではなくて、選挙で約束した『手取りを増やす』経済政策の実現が欲しいのです」(10月29日)
これは先の衆院選で議席を4倍の28議席に伸ばす結果を得た直後に開かれた記者会見での国民民主党玉木代表の発言だ。大臣ポスト=連立入りありきではなく「103万円の壁」や、ガソリン税の上乗せ部分の課税を停止する「トリガー条項」の凍結解除などの政策実現に意欲を示したものだ。確かにこれまでの国民民主党の動きを見ると連立に乗り出す形跡はうかがえない。先月、総選挙後の総理指名選挙では国民民主党は党首の玉木に投票した。また、与党側との政策協議でも、国民民主が今回の選挙で躍進した大きな要因である「103万円の壁」については現状では一歩も譲る姿勢を見せていない。
こうした意味では実際に政策本位で、是々非々に臨んでいるように見える。一方で筆者が強く感じるのは、徐々に野党側から、特に立憲民主党から距離を置き始めていることだ。
自民関係者も「参院選後には連立あり得る」
国民民主の野党離れを決定的に印象づけたのは先月末、立憲民主、日本維新の会、共産など野党各会派の代表者が参加した政治改革の実務者協議の集まりを欠席したことだ。参加者の一人は国民民主のつれない態度に困惑と皮肉を込めてメディアの前でこう発言した。
「残念ながら一つの政党がいらっしゃってない。よっぽどお忙しいんじゃないかとは思うんですけれども……」
野田佳彦代表率いる立憲民主党は自民党の派閥裏金事件の反省を踏まえ、特に自民党が難色を示している企業・団体献金の廃止について国会の場で石破総理ら政権側に迫っていく方針だ。そのためにも衆議院議員の総数では与党側を上回る野党勢力を糾合してプレッシャーをかけていきたい思惑があるのだが、国民民主はこうした野田の戦略には冷たい対応を見せている。野党間の実務者協議について、立憲民主のある幹部は事前に国民民主の古川元久代表代行に打診したのだが、古川氏は「野党案を作る必要はなく、自公を含めた与野党協議でまとめればいい」と断っていたというのだ。
「玉木さんの動きを見ていると段々と布石を打っているのは間違いないね。参院選後には(自公との)連立もあり得る状況だよ」(自民党関係者)
「聖域」だった税制で譲歩した森山幹事長
立憲民主などから距離を置けば当然、自民公明とは相対的に距離が縮まっていく。
「国民民主はやはり予算(補正予算案)賛成に回りましたね」
こんな情報が入ってきたのは12月11日のことだった。
政府がとにかく今国会で成立させなければいけなかったのが補正予算だ。今年度の補正予算は電気・ガス料金の補助の再開や、物価高への対応、地震や豪雨被害で傷ついた能登半島の被災地のインフラ復旧などの財源となるもので、総額約14兆円規模となる。
少数与党でなおかつ予算審議の行司役的な役割を担う予算委員長ポストを立憲民主党幹部の安住淳に明け渡して始まった予算審議は、どう転ぶのか始まる前は展開が読めなかった。こうした厳しい局面で自民党が選んだ戦略は、国民民主に最大限譲歩して立憲民主などの野党との“共闘”を阻むことだった。
宮沢洋一自民税調会長「一歩一歩、前進をしてきたところで、こういう話が出てくることについて言えば、釈然としない感じは、正直言ってあります」(11日)
衆議院での補正予算の採決を翌日に控えた11日夕方、自民党の税調会長の宮沢洋一参院議員は苦い表情で報道陣にこのように語った。党の代表として税制のとりまとめをする立場の宮沢が苛立ちを隠さなかったのは、自分の頭越しに、自民・公明・国民の3幹事長間で国民民主が求める「103万円の壁」についての合意文書をまとめ上げたことだった。3党が交わした合意文書には、「103万円の壁」については国民民主の主張する178万円を目指して来年から引き上げる、またもう一つ国民民主がこだわりを持つ「ガソリンの暫定税率」は廃止すると記されている。
この合意文書の見返りとして国民民主党は補正予算への賛成を正式に決めた。つまり自民公明は、「103万円の壁」「暫定税率」を予算成立の交渉カードに切ったというのが実態だったのだ。これまで税制に関しては自民党税調会長をはじめとする与党の税調幹部らが一手に取り仕切ってきた「聖域」であり、自民党の幹事長といえども容易に口を出すのははばかられる雰囲気があった。このため、宮沢としては公明・国民の実務者と協議を行っている最中にこうした合意を幹事長レベルで交わされたことは、不快以外の何物でもなかっただろう。しかし過半数を失った自民党としては「聖域」などと特別視する余裕は持ちあわせていない。少なくとも石破を凌ぐ自民党内切っての実力者である森山裕幹事長の考えはそうであると言っていいと思う。
党内における“石破降ろし”への牽制も
自民関係者「森山さんはおそらく今後も国民(民主)に対しては最大限譲歩していくだろう」

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