Weekly北朝鮮『労働新聞』 (104)

国防省談話で「トランプ政権」を批判、外務省談話では「非核化は非現実的」(2025年2月16日~2月22日)

執筆者:礒﨑敦仁 2025年2月25日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
「光明星節」に続き、金日成主席の誕生日(4月15日)を指す「太陽節」という呼称も復活するかどうか注目される[金日成・金正日の像に向かって頭を下げる市民たち=2025年2月16日、北朝鮮・平壌](C)AFP=時事
北朝鮮の外務省、国防省のスポークスマンが相次いで米国を批判する談話を発表した。2月15日付の『労働新聞』には、故金正日氏の誕生日を意味する「光明星節」(2月16日)という言葉が1年ぶりに登場した。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】

 2月22日付第3面に、第2次トランプ政権を名指しで批判する記事が掲載された。「敵どもの戦略的脅威には戦略的手段で対応するだろう」と題した北朝鮮国防省公報室長名義の談話である。「トランプ」への言及は1月22日付で大統領就任の事実を短く報じて以来であるが、今回の談話における批判の矛先は「トランプ政権」(原文は「トランプ行政府」)であって、ドナルド・トランプ大統領個人ではない。

 北朝鮮の安全保障環境を脅かす「米国とその追従勢力の軍事的挑発行為」がますますひどくなっている、との内容であり、米韓による合同空中訓練や射撃演習などが批判された。北朝鮮の核抑止力と米国の「覇権のための」核兵力は異なると主張し、「米国の典型的なヤンキー式傲慢性と鉄面皮で強盗的な二重基準論理」は通用しない、と表現された。「ヤンキー」はたまに使われるが、「米帝」よりは頻度が低い。

 先立って18日付は、「神聖なわれわれの国権と国威に挑戦しようとする時代錯誤的でつまらない企図は自滅的な結果を招くことになろう」と題する外務省代弁人談話を掲載していた。

 米日韓が「集団的対決と衝突を鼓吹」しているとして、その「冒険主義的妄動」に重大な懸念を表明し、北朝鮮の非核化は「実践的にも、概念的にもいまやとうてい不可能で非現実的」であり、「古びて荒唐無稽な計画」だと批判するものであった。非核化を追求することは、「無地蒙昧な原始人が現代人に原始社会に逆戻ることを懇請するのと同様であり、世人の驚きと唖然さをかきたてる愚かさの極みだ」という。その意図はともあれ金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長自身が「非核化」を口にしていた時節があったことを想起させる内容であった。

 談話では、「米国とその追従勢力による敵対的脅威が存在する限り、われわれにとって核はすなわち平和であり主権であり、国家憲法が付与した正当防衛手段である」との従来主張も繰り返された。

 金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の誕生日(2月16日)を意味する「光明星節」は、昨年2月17日付を最後に一切使用されなくなっていたが、1年間のブランクを経て今年2月15日付から突然再び使われ始めた。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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