やっぱり残るは食欲

春の簡単祭

執筆者:阿川佐和子 2025年4月15日
タグ: 日本
皆さんも「春の簡単祭」してみませんか(写真はイメージです)

 世の中には料理を一切しないという人が案外多いらしい。それぞれに事情があるようだが、一年三百六十五日のうち、三百五十日ぐらいは外食だと豪語する人が私のまわりにけっこういらっしゃる。

 離婚して一人暮らしを始めて以来、家でご飯を食べたことがないという七十代半ばの男性。子どもに付き添って奥様が外国に住むようになったため、一人だけ家に取り残された六十代のお父さん。仕事と飲み会に忙しいので、家ではまったく料理を作らないと決めている五十代の女友だちもいる。

 先日会った独身の若者(ちなみにこの連載を愛読してくださっている、本誌連載仲間の古市憲寿さん)は、家の冷蔵庫にはイチゴしか入っていないと言っていた。ならば食事はどうしているのかと聞いたら、外食かコンビニ弁当か、あるいは出前を取るという。若いからそれでも問題ないのだろうけれど、私はどんなにおいしいプロの作る料理でも、三日続くとなぜか身体がつらくなる。

「ウチでご飯を炊いて、おつけものとソーセージと豆腐のみそ汁で晩ご飯にしたい」

 粗食への欲求が胃袋の底からひたひたと湧いてくる。

「簡単なものでいいんだから、たまには家で作って食べたほうが身体にいいと思うよ」

 くだんの若者(ちなみに古市さん)に助言したら、

「その簡単なもの、ってのが、わからないんですよ。今度、教えてくださいよ」

 その言葉に私は目覚めた。よし、今回は、ふだん家で料理をしない人でも、「作ってみようかな」という気になるような簡単レシピをご紹介しようかと思う。

 と言っても、レシピがわかりにくいとの定評がある私のことだから、あまり期待はしないでいただきたい。加えて、以前にも書いたレシピが出てくるかもしれないが、ここでは改めて「春の簡単祭」ということでお許しくださいませ。

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』、『レシピの役には立ちません』(ともに新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top