トランプ大統領の発言とアクション(4月3日~4月9日):至芸のディールか、悪魔の業か。トランプが仕掛けた中国への「罠」

相互関税、90日間の一時停止決定でベッセント財務長官が暗躍か
「画家が絵を描くように、詩人が言葉を紡ぐように、ディールこそが私の芸術だ」とは、2014年12月にドナルド・トランプ氏が旧ツイッターに投稿した言葉だ。まさか、これが壮大な伏線になるとは当時誰も想定していなかったはずだ。
トランプ大統領は4月9日、相互関税をめぐり90日間の停止を発表した。日本の24%を始め、個別に割り当てられた相互関税の税率は、一律で10%へ引き下げられた。カナダとメキシコには、麻薬性鎮痛剤と不法移民に対する取り締まり強化を狙い、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の準拠品以外の輸入品に25%発動していたが、これは引き続き有効だとした。
また、報復関税として4月4日に相互関税の税率と同水準の34%、9日に50%の上乗せを発表した中国は、一時停止の対象外とした。加えて、中国には相互関税の関税率を当初の34%から2回の引き上げを経て、125%にすると発表。2月4日に発動した麻薬性鎮痛剤フェンタニルの流入の対策不十分を理由とした追加関税率は、3月4日に20%へ引き上げられているため、中国向けの追加関税率は全体で145%となる。
90日間の一時停止は、世界経済急減速と米景気後退入りの懸念が渦巻き、全面的な貿易戦争に怯える金融市場に救いの手を差し伸べた。9日のダウは前日比2962ドルと過去最大の上げ幅を記録して引け。ドル円も2024年10月以来の144円割れから一気に4円超も切り返し、一時は148円台を回復する勢いを見せた。米10年債利回りも、4月9日の東京時間に時間外取引で一時4.515%と前日比で0.2%を超えて急騰したが、4.3%割れまで上げ幅を巻き戻す動きをみせた。金融市場は、土壇場での「トランプ・プット(市場の下落局面で損失を限定するプット・オプションになぞらえた、トランプ氏の発言や政策などを指す)」を歓迎し、トランプ氏の「アート・オブ・ザ・ディール」と称賛を送る者もいた。
スコット・ベッセント財務長官は4月9日、一時停止の決定について「全面的に大統領の戦略」とトランプ氏に花をもたせたが、方向転換に貢献したのは他ならぬベッセント氏だ。ソロス・ファンド・マネジメントで最高投資責任者(CIO)に上り詰めたベッセント氏には、米経済と金融市場の崩壊に慄くウォール街からの電話が鳴り響き、トランプ氏を説得する必要に迫られた格好だ。4月6日にはフロリダ州のトランプ氏私邸、マールアラーゴに飛び、2人で膝を突き合わせ長時間にわたり協議した結果、通商政策への権限拡大も得ただけに、そこからの動きは速かった。
ベッセント氏自身、日々こなすインタビューを市場との駆け引きに有効利用していた節がある。4月7日、ベッセント氏はFOXビジネスにて「今まで約70カ国が政権に接触し、世界貿易の均衡化に向け協力を申し出た」と述べた上で、「4月から6月にかけ、忙しくなるだろう」と発言。振り返ってみれば、相互関税で各国に歩み寄る姿勢を示唆したものだ。4月9日へ向け、相互関税発動の90日間停止への道筋が固まっていたに違いない。
アックマン氏、ドラッケンミラー氏の“諫言”も
4月7日、ケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長のインタビュー発言として

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