経済の頭で考えたこと (22)

「壁崩壊の陶酔」に起因する欧州経済の沈滞

 ベルリンの壁が歴史遺産となって二十年を経過しても、欧州ではこの衝撃が生み出した余波は収まっていない。否、新しい合成波も登場した。起点はベルリンの壁が落ちたあの時の陶酔である。  二〇一〇年のEU(欧州連合)経済の見通しは、金融における活力の欠如が直接の原因となって、明るいものではない。銀行による与信増が期待できないのは、EUの銀行経営者が貸出債権の不良債権化の急増を懸念して、資金需要の掘り起こしに熱心とはいえないからだ。「大き過ぎて救えない」のがEU内の銀行部門についての諸政府の対応の特徴になりつつある以上、金融監督当局は貸出債権の質について厳格な基準の適用を手控え、時間をかけて貸出債権を一つひとつほぐすという路線に踏み出したのだ。何のことはない、日本の銀行による悪名の高かった先延ばし政策(フォアベアランス・ポリシー)そのものなのだ。住専(住宅金融専門会社)処理から始まる貸出資産の劣化のなかで、日本の銀行は地価の下げ止まりを期待して、資産処分の先送り態勢をとった。公的資金の注入が考えにくいため、時間をかせぎながら経済環境の好転を待つという手法に入ったのだ。しかしこれは事態を悪化させるものだった。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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