中東―危機の震源を読む (66)

岐路に差し掛かる米・イスラエルの「特別な関係」

執筆者:池内恵 2010年9月2日
エリア: 中東 北米

 本日9月2日からワシントンで始まるイスラエル・パレスチナの「直接対話」の背景として、オバマ政権下で表面化してきた米・イスラエル関係の変化を押さえておきたい。表面的には、米・イスラエルの緊密な関係をオバマ大統領とネタニヤフ首相は強調する。しかし背後には両国関係の長期的な「変調」を感じ取れる。
 イスラエルの和平交渉に対する姿勢は、この長期的な趨勢の変化、そしてオバマ大統領の意思をネタニヤフ首相がどう読み解いて対処していくかにかかっている。

米・イスラエル関係の変化に注目

7月6日の会談では亀裂の修復が演出されたが……(ネタニヤフ首相=左=とオバマ大統領) (c)AFP=時事
7月6日の会談では亀裂の修復が演出されたが……(ネタニヤフ首相=左=とオバマ大統領) (c)AFP=時事

 米・イスラエル関係は、米国の複数の「特別な関係」の中でもさらに「特別」なものとして知られている。文化・宗教的な類縁性や、経済や軍事面での緊密な結びつき、メディアや学術、文化の分野での分厚い人間関係の重なりが、米国とイスラエルを分かちがたく繋いでいる。この関係が短期・中期的に疎遠になるとは考えにくい。  しかしイスラエルへの一方的な肩入れが目立ったブッシュ政権と対照的に、オバマ政権はイスラエルに対する是々非々の批判も辞さず、他方で対ムスリム融和策を打ち出してきた。国際世論が、米国内のものも含めてイスラエルに対して厳しくなっていく中で、イスラエル内政・世論は国際的な孤立意識・被害者意識を高めている。  以下では、まずオバマ政権下での米・イスラエル関係の展開を振り返っておきたい。そこから浮かび上がる、米・イスラエル関係の構造的な変化や、米国がイスラエルに接する際の前提条件の変化の兆しを読みとり、中東情勢の今後を展望する。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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