中東―危機の震源を読む (34)

混迷続くレバノン 宗派主義体制の岐路に

 レバノン政治で混迷が続く。最大の争点は、十一月に任期の切れるラフード大統領の後任の選出である。大統領選出には一院制の議会(国民議会)で三分の二の得票が必要だが、政情は膠着状態で、選出の見込みは立たない。昨夏のヒズブッラー(ヒズボラ)とイスラエルの戦闘でヒズブッラーが政治的勝利を収めた勢いで、親シリア派は議会の三分の一の議席で得られる拒否権を振りかざし、議会であらゆる決定を不可能にしている。大統領と拮抗する権限を有するセニオラ首相と内閣は、ヒズブッラーをはじめとするシーア派の閣僚引き揚げによって正統性の危機に瀕している。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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