軍事のコモンセンス (17)

「騎兵」と「歩兵」の「均衡」と「充実」(上)

執筆者:冨澤暉 2017年4月29日
エリア: アジア
アメリカ陸軍の空中騎兵運用は、ベトナム戦争でも行われていた (c)AFP=時事

 

 30代前半の頃、司馬遼太郎氏の『坂の上の雲』を新聞連載中に読んだ。当時、自衛隊の尉官であった筆者たちは「我々は社会の日陰者か」という僻みを多少なりと持っていたので、そこに突如現れたこの小説は、砂漠の中のオアシスのように我々を潤してくれた。

「坂の上の雲」と「リデル・ハート」

 この小説は、伊予松山生まれの秋山好古(陸軍軍人)・真之(海軍軍人)兄弟と正岡子規(俳人)、この3人の生き様と明治時代をテーマにしたものである。3人とも極めて魅力的なのだが、騎兵の流れを汲む機甲(戦車)兵だった筆者が最も惹かれたのは、秋山好古であった。「フランス仕込みの好古の騎乗姿は前屈みで勇ましくはないが、それは、あらゆる状況の変化に応じうる柔軟性の表れである。彼が世界一のコサック騎兵に負けなかったのは同様に頭脳の柔らかさを保っていたからだ」という名解説に、筆者は酔った。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
冨澤暉(とみざわひかる) 元陸将、東洋学園大学理事・名誉教授、財団法人偕行社理事長、日本防衛学会顧問。1938年生まれ。防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。米陸軍機甲学校に留学。第1師団長、陸上幕僚副長、北部方面総監を経て、陸上幕僚長を最後に1995年退官。著書に『逆説の軍事論』(バジリコ)、『シンポジウム イラク戦争』(編著、かや書房)、『矛盾だらけの日本の安全保障』(田原総一朗氏との対談、海竜社)。
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