風が時間を (26)

まことの弱法師(26)

執筆者:徳岡孝夫 2018年5月27日
タグ: アメリカ 日本
エリア: 北米 アジア

 赤ん坊を抱いて妻は長居の府営住宅に帰ったらしい。電報に毛の生えたような手紙だが断片的な育児報告が私の手元に届き始めた。戦後の日本人が一心不乱に人口を増やしていた時代なので、今日では想像もできないことが書いてあった。

「お天気のいい日は団地は満艦飾です」という形容は今の日本人に通じるだろうか。

 私が「帰国時にアメリカで何を買って欲しいか」としつこく聞くものだから妻も考えたようで、乳母車を買ってくださいと言ってきた。私は面くらった。

 船で帰るから乳母車くらい持って帰れないわけではないが、留学土産にはどう考えても不似合いである。私は室友ロスに相談した。

カテゴリ: 社会 カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top