
まだ髷を結っていた頃の藤原あき。正確な撮影年は不詳。この後、あきは波瀾万丈の人生を送ることになる(自伝『雨だれのうた』(酣燈社)より)
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「いいこと。贔屓の役者さんのお芝居に行った際は、相手から見つめられることもあるのですから、めいっぱい綺麗にして行くのですよ」
あきは芦屋の名流夫人で構成される「阪神なのりそ会」の先輩夫人からこう教わった。
あきはその通りだと、深くうなずく。先輩の夫人に教わらなくとも、それは少女の頃から実行している。
贔屓の、橘屋・第15代市村羽左衛門は、舞台からは豆粒ほどにしか見えない観客の中から、新調した着物をまとう自分を見つけてくれるであろうという思い入れであきは観劇していた。

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