灼熱――評伝「藤原あき」の生涯(66)

執筆者:佐野美和 2019年8月25日
タグ: 中国 日本
エリア: ヨーロッパ アジア
まだ戦争前、家族そろって洋行から帰国した頃(下関市「藤原義江記念館」提供、以下同)
 

 幾度かのカーテンコールを終えて重厚な緞帳はピタリと床に着き、再び上がることはない。鳴りやまない拍手と歓声を背景音楽に、夫は妻の待つ楽屋に飛んで帰ってくる。

「どうだった?」

 得意と不安が入り交じり懇願するような眼差しで妻の答えを乞う。

「よかったわ」

 夫が欧州のオペラの舞台に立つようになってから17年間変わらないやりとりだ。

しかし妻の「よかったわ」は、戦争が終わってよかった。オペラができるようになってよかった。生きていられてよかった、の意味である。

カテゴリ: 社会 カルチャー
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執筆者プロフィール
佐野美和(さのみわ) 政治キャスター。東京都八王子市出身。株式会社チェリーブロッサムインターナショナル代表取締役。大学在学中、フジテレビの深夜番組として知られる『オールナイトフジ』のレギュラーメンバー「オールナイターズ」の一員として活躍した。1992年度ミス日本に選ばれる。TBSラジオのパーソナリティ、TBSラジオショッピングの放送作家を経て、1995年から2001年まで八王子市議会議員として活動。以後はタレントとしてテレビ出演のほか、講演会も精力的に行う。政治キャスターとしてこれまで600人以上の国会議員にインタビューしている。主な書籍に『アタシ出るんです!』(KSS出版)、『あきれたふざけた地方議員にダマされない!』(牧野出版)などがある。
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