現実に迫ってきた「大失業時代」「就職氷河期」の明日

執筆者:鷲尾香一 2020年7月13日
エリア: アジア
表1 労働力の推移:季節調整値(単位:万人、カッコ内は前月比)

 

「新型コロナウイルス」感染拡大防止のための緊急事態宣言の発出、それに伴う休業要請や外出自粛は、経済・企業活動を停止させ、雇用情勢を大幅に悪化させた。連日の報道でよくよくご承知だろうし、解雇や契約停止など現実に身に降りかかっている方も多いだろう。

 まずは、雇用の現状を見てみよう。表1(記事冒頭)は、総務省が毎月発表している『労働力調査(季節調整値)』による雇用の状態の推移だ。

 これによると、「労働力人口」(15歳以上の人口のうち、「就業者」と求職中の「完全失業者」合計)は、4月に前月比99万人も減少したが、5月には同21万人増加している。

 一方、「非労働力人口」(15歳以上の人口のうち「通学」「家事」「その他高齢者」など「労働力」以外)は、4月には同94万人増加したが、5月には同21万人減少している。

 これを見れば、労働力人口と非労働力人口の動きはおおよそ整合性が取れており、数の見合った動きとなっている。

 しかし問題なのは、5月の労働力人口のうち、就業者が同4万人の増加にとどまっていることだ。

「労働力人口」を膨らませた「完全失業者」

 では、就業者が同4万人しか増加していないのに、なぜ、労働力人口は同21万人も増加したのか。

 それはとりもなおざす、完全失業者が同19万人も増加したためである。前述の通り、労働力人口の中には「就業者」だけでなく、「完全失業者」もカウントされているのだ。

 簡単に言えば、「労働力人口」とは「働く意思がある人」で、対する「非労働力人口」とは「働く意思がない人」という括りなので、失業中でも働く意思があって求職していれば「労働力」ということになる。つまり、非労働力人口が同21万人減少したのは、完全失業者の同19万人の増加に振り替わったということになる。

 6月16日の拙稿『失業者増大でも「失業手当」「休業手当」もらえない「制度の落とし穴」』で、完全失業者が増加しているにもかかわらず、公共職業安定所(以下、ハローワーク)で新規に求職の申し込みが行われた件数、失業手当の受給に至った件数が減少するという不思議な現象が起きていることを指摘した。

 そしてこの現象は、「会社の退職手続きの遅れ」「ハローワークの事務処理能力の限界」に加え、失業者が新型コロナ感染を恐れる警戒心や、いま仕事を探しても条件の良い求人はないだろうという判断で、ハローワークに出向いていないことが大きいのではと分析を述べた。

 つまり5月の完全失業者の増加は、ハローワークに行かなかったことで非労働力人口にカウントされていた分が、5月の緊急事態宣言解除を受けて仕事探しを始めたことで、失業者として顕在化したことが理由なのだ。

 この結果、5月の完全失業率は2.9%と前月比0.3ポイント上昇し、3カ月連続悪化した。

 さらに大きな問題は、5月の雇用者は同27万人も減少しているのに、なぜ、就業者が4万人の増加となっているのかという点だ。

 それは、「自営業主・家族従業者」が同31万人と大幅に増加したためである。

 自営業主・家族従業者とは、雇用者のことではない。仕事を失った人が、フリーランスとして、「1つの会社に縛られず、比較的短期間の仕事を単発で請け負い、それを繰り返していく」という、いわゆる「ギグワーカー」として働くようになった。こうした人たちを「自営業主・家族従業者」という括りに加えているため、実数が増加したのだ。

 当然、自営業主・家族従業者は雇用者のように定期的な収入が約束されているわけではない。収入は非常に不安定だ。フリーランスの筆者も実感しているが、“失業者と紙一重の存在”だと言えよう。

 加えて、4月に前月比で105万人、5月も同27万人が減少した雇用者数は、その内訳を見ると、非正規雇用者が大幅に減少している。5月は前年同月比で正規雇用者の減少が1万人なのに対して、非正規雇用者は61万人の減少だ。

 ここまでを簡単にまとめれば、

(1)労働力人口が増加したのは失業者が増えたため

(2)就業者が増加に転じたのは、自営業主・家族従業者が増加したから

(3)雇用者の減少は、ほとんどが非正規雇用者の減少

 ということになる。

 これだけでも、いかに雇用が悪化しているかおわかりいただけるだろう。

 だが、極めつけは「休業者」だ。

 4月に前月比で348万人も増加して597万人となった休業者は、緊急事態宣言の解除を受けて、5月は同174万人減の423万人となったものの、依然として高止まっている。

 労働力調査では、休業者は就業者に含まれており、失業者にはカウントされない。だが、仕事がないための休業は、やがて失業に転じる可能性が高い「失業予備軍」でもある。

 もし休業者を失業者とカウントした場合には、2.9%だった5月の完全失業率は10.2%まで跳ね上がる。ここに自営業主・家族従業者が加わり、非正規雇用者が完全失業者となれば、その数は爆発的に増加するだろう。

一転「人員過剰」で「求人」減少

 では、雇用の現状がこれだけ悪化している中で、企業の求人はどうなのか。

 厚生労働省は、ハローワークにおける求人、求職、就職の状況をとりまとめて求人倍率などの指標とする『一般職業紹介状況』を毎月作成、公表している。

 これによると、5月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月比0.12ポイント低下して1.20倍になった。低下に歯止めがかからず、2015年7月以来の低水準だ。有効求人数も同8.6%も減少している。

 新規求人倍率は同0.03ポイント上昇して1.88倍となったが、3月までは2倍台で推移していたことを考えれば、戻りは鈍い。

 新規求人数も前月比7.0%の上昇となったが、4月に22.9%と大幅に下落したことを考えれば、戻りは非常に鈍いと言わざるを得ない。

 企業の今後の雇用状況を見る上で、日本銀行の『全国企業短期経済観測調査』(いわゆる『日銀短観』)の雇用関係のDI(判断指数)は注目だ。

 通常、『日銀短観』では企業の業況判断DIだけが注目されて、雇用関係のDIは注目されない。しかし、雇用関係のDIには企業の雇用に関する姿勢が如実に表れる。

 表2は、雇用人員判断DIだ。

表2 雇用人員判断DI(「過剰」 - 「不足」・%ポイント)

 これは、人員が「過剰」から「不足」を引いたものを指数化している。3月調査では、大企業は製造業、非製造業、全産業ともマイナス、つまり人員不足だった。だが、6月調査では、製造業はプラスに転じている。つまり、人員過剰となった。

 大企業以外にも、中堅企業、中小企業の製造業は人員過剰に転じており、大企業、中堅企業、中小企業とも、非製造業、全産業で人員不足だった指数が大幅に減少している。つまり、企業の人員判断は大きく「過剰」に傾いてきており、さらなる人員整理が行われてもおかしくない状況だ。

 さらに悲観的にならざるを得ないのは、表3の新卒採用計画だ。

表3 新卒採用計画(全産業)〈6、12月調査のみ〉(前年度比・%)

 2019年度は大企業、中堅企業、中小企業とも採用増だったが、2020年度計画では、大企業と中堅企業が採用減に、2021年度計画では大企業、中堅企業、中小企業のいずれもが大幅な採用減の計画となっている。

 筆者はこれまでに何度も、「新型コロナの影響が雇用の悪化につながり、第2就職氷河期世代を産み出す可能性がある」と警鐘を鳴らしてきたが、これが急速に現実味を帯びている。

大幅に増加する生活保護世帯

 こうした雇用の悪化状況は、言うまでもなく生活苦に直結する。

表4 生活保護の推移

 厚労省が生活保護の需給実態を毎年まとめている『被保護者調査』の推移が、表4だ。これによると、4月時点でも「被保護実人員」は前年同月比で減少傾向が続いており、「被保護世帯数」の傾向にも大きな変化はない。

 だが、「申請件数」と「保護開始世帯数」は3月から前年同月比で増加し、4月には大幅な増加となっている。新型コロナの影響により、生活保護に頼らざるを得なくなった世帯が大幅に増加していることの証左だろう。生活保護世帯は、まだまだ増加するおそれがある。

 雇用が大幅に悪化し、失業者が大量に発生する可能性が強まる中、個人に一律10万円を支給する「特別定額給付金」も、企業が支払った休業手当を支援する「雇用調整助成金」も、売上が前年同月比で50%以上減少した事業者を支援する「持続化給付金」も、いずれも一時的な措置だ。

 だが、生活保護が増加すれば、その財政負担は相当期間続くことになる。

 その負担の軽減を図るには、政府は新型コロナ禍の企業取引環境の整備やビジネスモデル、雇用環境の整備を積極的に進め、安定した雇用状況を継続できるような施策を早急にとる必要があろう。

「大失業時代」は足音を忍ばせながら、しかし確実に目前まで迫って来ているのだから。

 

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執筆者プロフィール
鷲尾香一(わしおこういち) 金融ジャーナリスト。本名は鈴木透。元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。
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