【特別連載】米大統領選「突撃潜入」現地レポート
【特別連載】米大統領選「突撃潜入」現地レポート (18)

「バイデン」の故郷で開いた「トランプ」支援者集会(ペンシルベニア州)

執筆者:横田増生 2020年10月1日
エリア: 北米
「トランプ2020」の旗を掲げて走るピックアップトラック(ペンシルベニア州オールド・フォージにて筆者撮影、以下同)
 

 9月29日夜(日本時間30日午前)、ドナルド・トランプとジョー・バイデンの1回目の直接テレビ討論が行われた。直前に、『ニューヨーク・タイムズ』がトランプの「納税ゼロ問題」を報じていたこともあり、日本でも注目を集めた。

 90分のディベートのハイライトは、トランプが司会者にトランプ支持者である白人至上主義者たちを非難するのか、と問われるが、トランプは、明確な答えを避けたところだ。

 遡ることその1カ月強前、米民主党が党大会を開いていた8月の第3週、トランプは遊説のため激戦州を回った。民主党に集まる注目を分散させるのが狙いだ。

 ミネソタ州を皮切りに、ウィスコンシン州、アリゾナ州、そして最後は、民主党の大統領候補となるジョー・バイデンの生まれ故郷であるペンシルベニア州スクラントンから車で10分ほど離れたオールド・フォージという町だった。

 これまでの大統領選挙戦では、相手の党が党大会を開いている期間は、選挙活動を極力控えることが慣習となってきたが、トランプにはそんな慣習など通用しない。

「生まれ育った」だけでは支持しない

 バイデンが大統領候補の受諾演説をする8月20日、私は、トランプの最後の遊説地であるオールド・フォージでトランプの支援者集会を取材した。

 トランプが演説会場に選んだのは、田舎町にある建設会社の資材置き場。晴天の当日、田舎町の狭い2車線の道路の先に、建設会社はあった。

 トランプの演説は午後3時から。午前10時に到着した私は、すでに路上駐車の車があふれる通りにどうにか自分の車を停め、支援者たちの声を集めて回った。

熱烈なトランプ支持者のケイリブ・アウパリー

 最初に声を掛けたのは、まだ首の据わらない新生児を乳母車に乗せ、2階建ての自宅前に立っていたケイリブ・アウパリー(30)だった。

「僕は、熱烈なトランプ支持者だ。なぜかって? 僕自身と婚約者、そして家族の4人が、石油関連の同じ会社に勤めているからだよ。石油タンクの清掃に使う専用のブラシなどを作っている会社。従業員30人程度の小さな会社だけれど、世界でも最先端の技術を提供しているんだ。新型コロナ禍で閉鎖を余儀なくされる会社もあったけれど、われわれの仕事は必要不可欠だと州政府に判断されたので、休職する必要もなかった。トランプはそんな石油産業の支援者だから、そこで働くわれわれはトランプを支持するんだ。11月にはもちろんトランプに投票するよ」

 ペンシルベニア州と石油産業は切っても切り離せない。1850年代の“オイルラッシュ”と呼ばれる石油ブーム以来、同州の主要産業の1つとなっている。石油会社だけでなく、関連会社も数多く存在する。

 トランプは石油産業や天然ガス産業の支援を表明している。その一環として2019年11月、地球温暖化対策の国際的な枠組みであり、二酸化炭素の排出を制限するパリ協定から離脱することを表明している。

 トランプは地球温暖化問題を「でたらめ(hoax)」と呼び、それよりも化石燃料産業で働く人々の雇用を守る立場をとる。原油価格が下落した今春、トランプは石油産業を支援する計画を作るよう閣僚に指示を出した。その時、

「アメリカの偉大な石油・ガス産業を落胆させることは決してしない」

 とツイートした。

 一方バイデンは、脱炭素を目指す「グリーン・ニューディール」を掲げ、風力発電や太陽光発電などに切り替えていく政策をとる。

「グリーン・ニューディール自体に反対はしないけれど、現在の仕事がどう守られるのかは大切な点だ。それにバイデン自身は40年以上政治家をやっているけれど、やり遂げた実績は多くない、と思っている」

 とアウパリーは語った。

 最後に、民主党大会でバイデンが大統領候補になることを受諾する日に、トランプがバイデンの故郷で演説することについて聞いてみた。

「全然問題ないだろう。アメリカでは言論の自由が保障されているんだ。大統領が、いつ、何を話そうと、それは自由なんだよ。それにバイデンが生まれ育った町に住んでいるからという理由だけで、バイデンを支持する人なんていないだろう」

警察カラー「青」でトランプ歓迎

 青色のトランプの帽子と「Trump2020 Keep America Great」の文字が入ったTシャツを着ていた女性は、「オールド・フォージにようこそ」と書かれた青色のプラカードを持っていた。

元警官のジュディー・ホーリー=ストームも「法と秩序」の大統領を支持

 地元で警官を26年務めた後、今は引退の身であるというジュディー・ホーリー=ストーム(66)は、トランプの支援者だ。

 トランプのイメージカラーは、赤と青がある。トランプを地元に迎えるのに青を選んだのは、ストームが警官であったことに誇りを持っているからだ。

「(アメリカでは)青は、警官を表す色でもあるから、できるだけ青に統一してみたの。トランプが唱える、法と秩序の大統領という考え方が好きだわ。

 国境での強力な入国管理も、アメリカ国内の治安を維持するのに役立っていると思うの。トランプ以前の大統領は、不法移民の問題をタブー扱いして放置していたから」

――ミネアポリスで白人警官が、黒人男性のジョージ・フロイドの首筋に8分以上膝を落とし殺してしまった事件をどう思いますか。

「悲しい出来事で、起きてはならなかったと思っているわ。警官の一部には、今以上に講習やトレーニングを必要としている人もいるってことね。でも、すべての警官が問題を抱えているわけではないわ。少なくとも私が働いていた地元の警察では、ジョージ・フロイドのような事件は起こっていないし、私自身も、黒人の被疑者を首を絞めて押さえ込んだことは1度もないわ」

――ジョージ・フロイドの殺人に関わった4人の警官についてはどう思いますか。

「それに答えるには裁判所の判決を待つ必要があるわね。現時点で分かっている事実だけじゃ、十分じゃないから」

――これまでの類似の事件での裁判では、黒人を殺したり虐待したりした警官の免責が認められ、無罪になるケースが数多くありました。

「それが判決だということは、警官に罪はないということよね。この国は司法国家なんだから」

――黒人が警官に殺される割合は、白人の3倍近くに上ります。このことは、トランプ自身も最近のインタビューで、現状を「好ましくない」と話しています。

「白人だって、警官に殺されることはあるわ。この街でも、白人男性が過去半年に2人、警官に殺されているわ。けれど、それはニュースにはならない。それはおかしいと思わない。“Black Lives Matter”(黒人の命も大切)運動もいいけれど、治安を維持している警官の命も大切(Blue Lives Matter)と言うこともできるわよね」

――BLM運動からは、警察を解体せよ(Defund the Police)という運動も起こっています。

「それは極左団体の『アンティファ』などが、現状の混乱を自分たちの有利にしようとしているのよ。BLM自体が、マルクス主義の信奉者によって作り出された団体じゃない」

 最後の発言に関して事実確認をしておこう。BLMの創設者がマルクス主義の信奉者だから、国家転覆を目指すアンティファとつながっている、という言説。

 BLMの創設者の1人が、「マルクス主義の薫陶を受けた」と話しているのは事実だが、BLMは流動的な運動で、全米の運動をまとめるような本部やトップがいるわけではない。BLMは、幅広いアメリカ人を巻き込んだ反人種差別運動である。BLMがテロ集団というのは、間違った認識である。

 トランプの一挙手一投足を追っていると、トランプの言動だけではなく、支持者の言動についても事実確認(Fact Checking)が必要になることがわかる。BLMに関する言説も、トランプの顧問弁護士や政府高官が支持者向けに拡散し、それを受け取った支援者が発言しているという事実があるからだ。

 話は聞くけれど、それをどのように判断するのかの前段階に、1つ1つ事実関係を確認する作業が必要となる。

「ニュースの80%はフェイクだ」

トランプを盲信する元軍人のエドワード・I

「Trump 2020 No More Bullshit(戯言はもういらない)」という旗を掲げ、「アメリカ陸軍 退役軍人」の帽子を被っていたのは、地元に住むエドワード・I(ラストネームはイニシャルのみ)(65)だった。現在は、会社勤めも終え、引退の身だという。

「ベトナム戦争に2回従軍した。最初は2年で、2回目は6年。合計8年間だ。トランプを支持するのは、愛国者だからだよ。それに、コロナがアメリカを襲うまでは、経済は絶好調だった。年金の一部を株で運用しているので、株価が高いというのは大切なことだ」

 その新型コロナで、アメリカは17万人以上の死亡者を出している(8月20日時点)。そのため経済活動を再開できず、失業率は10%に迫り、1920年代の大恐慌以降、最悪の状態にある。

「新型コロナによる死者が17万人を超えているというのはウソだよ。CDC(米国疾病対策センター)の発表だって? フェイクニュースだ。フロリダでは交通事故で死んだのに、解剖後にコロナに感染しているのが分かり、コロナによる死亡者にカウントされた例もあっただろう。今の発表されている数字は、現実より大きな数字になっているんだ。なぜかって? コロナによる死者数や経済的な打撃が大きいほど、トランプの再選に不利に働くからさ。すべてが政治なんだ」

 トランプ支援者に取材するときの難しさがここにある。

 アメリカの政府機関であり、大統領が管轄するCDCが発表する新型コロナによる死亡者数をフェイクニュースと呼び、トランプに責任はないとする。それではまともな議論がはじまらない。交通事故死がコロナの死者として数えられたことは事実だが、それは特殊なケースで、この1点をもって、全体の数字がかさ上げされているというのは無理がある。

 この傾向はエドワードに限ったことではない。トランプ支持者は一様に、死亡者数に疑問を投げかけたり、新型コロナに関する失政を民主党の州知事の責任にしたり、トランプはトランプでできうる限りベストを尽くした、として擁護する。

 しかしWHO(世界保健機関)によれば、9月30日の時点で、新型コロナによるアメリカ国内の死亡者数は20万人を超えている。対する日本は約1600人。アメリカの人口を日本の3倍とすると、アメリカが日本並みの死亡者数となると、その数は4800人止まりとなる。アメリカは、日本の42倍の死者を出していることになる。

 日本のコロナに関する死亡者数が、アメリカ並みになるとすれば、その数は6万7000人を超える。

 それでもトランプは、コロナの対応に手落ちはまったくなかった、と語り、その対応に責任を取るつもりはない、とも語っている。

 さらに、トランプはことあるごとに、新型コロナを「中国ウイルス」と呼び、発生源の中国に責任があると発言する。しかし、発生源が国外であっても、各国の対応によって死者数は大きく違う。アメリカの新型コロナの対策は、紛れもなく失策である。

 だがトランプ同様、トランプ支持者も責任転嫁をして事実から目を背ける。

 こちらの当惑顔に気が付いたのか、エドワードがこう話す。

「ニュースの80%はフェイクニュースだよ。『CNN』に『MSNBC』、『ABC』なんかはね。『FOXニュース』は85%までが事実だな。タッカー・カールソンやショーン・ハニティーの番組は特にいい。ほかにはラッシュ・リンボー(超保守系のラジオトークショーのホスト)の番組もいい」

 フェイクニュースと事実とは、どこで線引きするのか。

「トランプからのツイッターだよ。大統領から直接、言葉が届くんだ。ツイッターの内容が真実かどうかを判断する基準になる。選挙で国民に選ばれてトランプは大統領になったんだから」

――トランプは大統領就任以来、2万回を超える事実とは反する発言をしています。

「それはだれが数えたんだい。『ワシントン・ポスト』や『CNN』だって。奴らがフェイクニュースなんだから、そんなのあてになるわけがない」

――ロシアがアフガニスタンに駐在するアメリカ兵の首に懸賞金を懸けていたのをトランプが見過ごしていた、という報道については?

「それも『ニューヨーク・タイムズ』が言い出したんだろう。フェイクニュースさ」

 自分に敵対するメディアをフェイクニュース呼ばわりするトランプの姿勢は、これほど見事に支持者に浸透している。

 しかし、トランプにとって正しいニュースかフェイクであるのかを見きわめる基準は、自分の意に沿っているのか否か、だ。自分の意に沿わないニュースをフェイクとしてレッテル貼りをすることは、事実に立脚している民主主義を、これまでの4年で大きくむしばんできた。

トランプ演説を「ファクトチェック」

 トランプの支援者集会は、通常、事前にネットで申し込みを受け付け、基本的にはだれでも参加できる。しかし、それ以前の屋内での支援者集会が新型コロナ集団感染の原因となった、という批判に対応してのことか、この週の激戦州での支援者集会は、招待者だけが参加できるというものだった。

トランプを乗せたとみられるリムジン車

 私はメディアとして参加しようとして、受付で1時間ほど粘るが、事前の招待メールがないと演説会場に入れることはできないというので、演説を生で見ることをあきらめる。200~300人の観衆と、多くの白バイやパトカーに先導されて会場に入ってきた、トランプの車を見ることとなった。

 私は同日、『YouTube』に上がった動画で演説を見た。

 トランプの約1時間の演説を、『CNN』のファクトチェック記事を基に、事実確認しながら見てみよう。

■トランプの事実と異なる主張(1)

「民主党は郵便投票によって選挙を盗み取ろうとしている。民主党が11月の大統領選挙で勝てる方法は、郵便投票を不正に操作することだけだからだ」(トランプ)

 主要な世論調査では、いずれもバイデンがトランプに7~8ポイントの差をつけてリードしている。この日演説をしたペンシルベニア州でも、8月24日の数字で、バイデンの支持率が49%に対し、トランプ43%となっている。ここまでは、激戦州を含め、バイデンが有利に選挙活動を進めてきている。

「郵便投票による不正」というのは、トランプが5月ごろから盛んに言いふらしている謬説で、新型コロナのために大統領選挙で郵便投票が増える傾向にあることに対し、郵便投票は不正投票の温床となる、というものだ。

 しかし、政府を含めたこれまでの調査で、郵便投票によって不正投票が増えるという結果は出ていない。

 トランプが郵便投票に噛みつくのは、11月の選挙で負けたときに備えての口実づくりではないか、とアメリカでは言われている。

■トランプの事実と異なる主張(2)

「民主党のバラク・オバマ前大統領は、われわれの選挙をスパイしており、その証拠は挙がっている」

 オバマが2016年のトランプの選挙活動をスパイしたという事実はない。FBI(米連邦捜査局)が同年のトランプの選挙活動とロシアの関係を調査したことはあるが、その手法はいずれも合法だった。

■トランプの事実と異なる主張(3)

「アメリカにおける新型コロナは収束に向かっている」

 アメリカの新型コロナの状況は収束とは程遠く、毎日、何万人もの新しい感染者が現れ、1日平均1000人前後の人が亡くなっている。

■トランプの事実と異なる主張(4)

「(新型コロナ対策の優等生のように言われている)ニュージーランドでも昨日、多数の感染が報告されている。ニュージーランドもこれで終わりだ」

 ニュージーランドではそれまで100日以上、感染者が1人も出ていなかったが、トランプが演説をした前日は、6人の感染者を出した。しかし、同日のアメリカの感染者数である約5万人とくらべると、ほとんどないに等しい数字である。ニュージーランドの具体的な数字を挙げず、多数の感染者を出している、と言うことで、自分の新型コロナ対策の不手際から注意を逸らそうとする意図が透けて見える。

『CNN』がファクトチェックした結果、8カ所が事実と異なると指摘されているが、それ以外にも事実と異なる部分がある。

 たとえば、「バイデンは石油産業を廃止しようとしている」という言葉。バイデンは繰り返し、石油産業の廃止は訴えていない、と述べている。

 またトランプは、選挙の投票時に、「民主党は、(免許証などの)投票者のIDの提示を求めていない」と語っているが、これも事実と異なる。

 ほかにも疑わしいところはあるが、ファクトチェックには根気と労力がかかるので、10カ所を数えたところで打ち切りたい。

 トランプの演説を何度も聞き、その後、ファクトチェックを繰り返していくと、事実関係が怪しい箇所への臭覚が働くようになる。約1時間の演説で10カ所以上の言説の事実関係が怪しいとなると、その演説自体が、まともな演説として成り立たなくなるのではないか。

 もちろん、政治家の選挙演説の中には、誇張もあれば、言い過ぎることもある。

 しかしトランプの場合は、明らかに違う。先に『ワシントン・ポスト』が数えた数字を挙げた通り、7月の段階(大統領就任から1267日)で、2万件の事実と異なる主張をしている。1日平均で15件。

 この中には、4月の「(新型コロナの治療法として)消毒液のようなものを体内に注射できないか」や、5月の「マラリアなどの治療に使われる薬が(新型コロナの治療に)有効だと思う」などの、国民の健康を害し、死を招くような危険なウソも含まれている。単なる見解の相違では済まない。

「トランプは人種差別主義者」

 トランプを支持しない人々にも話を聞いた。

バイデンに投票するというデルマー・グサベージ

 地元のウィルクス大学で歴史と国際政治を専攻するデルマー・グサベージ(22)は、「米郵政公社を救え。トランプをキャンセルしろ!」と書かれたプラカードを持っていた。

「2016年にはトランプに投票したんだけれど、まだ18歳でよくわかっていなかった。4年前は、なんでもズケズケ語るトランプが立派な指導者に見えたんだ。けど、新型コロナの中、郵便投票を阻止しようというトランプは、国民を思いやる気持ちがない。

 僕にとって大きな転換点になったのは、2年前、祖父母の母国であるポーランドに旅行して、ナチスのホロコーストの足跡をたどる旅行をしたこと。トランプがイスラム教徒や中南米の移民を敵視する姿勢は、ヒトラーがユダヤ人をスケープゴートにしたのと酷似しているのに気づいてから。トランプを勝たせるわけにはいかない。11月にはバイデンに投票するつもりだ」

トランプは人種問題を分かっていないというリッキー・セファス

「スクラントンはジョー(バイデン)を愛している」というプラカードを掲げた黒人男性に話を聞いた。地元の中学校で教師をしているというリッキー・セファス(47)だった。

「トランプは新型コロナの対策で後手に回ったのはたしかだ。非常事態宣言を出す3月ではなく、1月に行動していれば、アメリカの死亡者数も大きく減らすことができたはず。周りにいる優秀な科学者の話に耳を傾けることなく、自分の勘を頼りに政策を決めたのが大きな失敗。

 加えて、トランプはどうやって人種問題を解決するのか全くわかっていない。トランプは、自分以上に黒人社会に貢献した大統領はいない、などと言うけれど、そんなのウソっぱちさ。1964年に公民権法を成立させたLBJ(リンドン・ジョンソン大統領)の貢献が一番大きい。

 それと並んで、南北戦争後に黒人を解放したエイブラハム・リンカーン大統領がいる。トランプは、黒人社会に貢献するどころか、BLMさえも敵視しているじゃないか。

 黒人社会から見ると、バイデンも完璧な候補者じゃない。50年近い議員生活を振り返ると、賛成できないところもある。けれど、分断を煽るトランプよりは、はるかにましだよ」

「ブラック・ライブズ・マター」と、「トランプ(ハート)エプスタイン」と書かれたプラカードを持った2人の女性に話を聞いた。

 トランプの演説が終わり、街道に集まった支持者が帰途につきはじめたころ、先のプラカードを持った2人が演説場所に向かって「トランプは人種差別主義者だ!」と叫びながら歩いているのを私は見ていた。

 トランプ支持者は、それぞれに口汚く2人を罵った。

「お前らの親が知ったら泣くぞ」

「バイデンなんか不愉快だ!」

「ブラックライブズなんて知ったことじゃない(Black Lives don’t Matter.)」

「中絶で亡くなっていく子どもの命を守るのが大切よ」――

 トランプ支持者の剥き出しの敵意と、その中を平然と歩く2人の姿が印象的だった。

 私がコンビニで水を買って一息ついているところに、たまたま2人がやってきた。

アイラ・ウォーカー(左)とケイラ・べトレス(右)

 地元に住むケイラ・べトレス(32)とアイラ・ウォーカー(23)だ。テレビで、トランプ訪問を知ったために、駆け付けるのが遅くなったのだ、という。

「子供を2人連れた母親に、火のついたままのタバコを投げつけられたのにはびっくりしたわね。ケガ? ケガはなかったけれど、自分の子供が見ている前で、なかなかそんなことはしないじゃない」

 と言うのはベトレス。ウォーカーは、

「トランプは、人種差別主義者で、女性が嫌いで、ホモセクシュアルが嫌い。自分と同じような白人男性としか付き合えないタイプ。(ジェフリー・)エプスタインなんかはその例ね」

 エプスタインとは、アメリカの実業家で、児童買春で有罪となり、2019年獄中で亡くなっている。享年66。

 エプスタインの児童買春の手助けをしたギレーヌ・マックスウェルが7月に逮捕された時、トランプは「彼女に幸運を祈る」と発言している。

 再び、ベトレスが言う。

「トランプが私たちの町にきて何をしゃべっても構わないわ。でも、私たちだって、私たちの主張を口にする権利があるわ。それがアメリカでしょう」

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カテゴリ: 政治 社会
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執筆者プロフィール
横田増生 ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て米アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号を取得。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め、1999年よりフリーランスに。2017年、『週刊文春』に連載された「ユニクロ潜入一年」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞(後に単行本化)。著書に『アメリカ「対日感情」紀行』(情報センター出版局)、『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋)、『仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(小学館)、『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋)、『潜入ルポ amazon帝国』(小学館)など多数。
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