「人手不足」と外国人
「人手不足」と外国人 (57)

コロナ禍も急増「ベトナム人留学生」利用し棄てる「罪と矛盾」(上)

執筆者:出井康博 2021年2月2日
エリア: アジア
ベトナム人実習生が入手した1月18日ハノイ発、19日大阪着の航空券(筆者撮影)

 

 菅義偉首相は1月13日、緊急事態宣言の対象に7府県を追加した際、11カ国・地域の外国人に例外的に認めていた入国制限の緩和措置を、一時停止すると発表した。菅首相にとっては、さぞや不本意な決断だったに違いない。

 というのも、1週間前の1月7日に同宣言が1都3県に発令されたとき、菅首相は同措置の継続に拘っていた。新型コロナ「陰性証明」を条件に、外国人を受け入れ続けると語っていたのである。

 しかし、菅首相の姿勢には自民党内からも異論が相次いだ。また、コロナの感染状況も悪化し続けた。そのため菅首相は、主張を取り下げざるを得なくなった。

 なぜ、菅首相は外国人の受け入れを続けたかったのか。

 新聞など大手メディアは同措置に関し、「中韓を含む11カ国・地域からビジネス関係者などの入国を受け入れている仕組み」(1月7日『朝日新聞』電子版)と報じるが、具体的にどこの国から、いかなる「ビジネス関係者」が入国するための制度なのか。

入国制限緩和で増加したベトナム人と中国人

 まず、コロナ禍における外国人の入国制限緩和の動きから振り返っておこう。

 政府は昨年6月、「国際的な人の往来再開に向けた段階的措置」のもと「ビジネス上必要な人材等の出入国について例外的な枠を設置」(新型コロナウイルス感染症対策本部)した。

 この措置によって、翌7月から徐々に入国制限が緩和されていく。まず、ベトナムとタイが対象国となり、続いて11月までに中国、韓国、シンガポール、マレーシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ブルネイ、台湾という計11カ国・地域へと広がった。では、同措置などによって、どれだけの外国人が入国したのか。

 法務省出入国在留管理庁は、11月以降に同措置などで来日した外国人の数を毎週、国籍や在留資格別に公表している。そのデータを集計してみると、興味深い実態が見えてくる。

 11月初めから1月21日の間に入国した外国人の数は12万8625人だった。最も多いのがベトナム人の4万9106人で、第2位が中国人の3万9620人だ。入国制限の緩和措置で来日した外国人の3人に2人は、ベトナム人もしくは中国人ということになる。

 在留資格別では「技能実習」が5万5754人、「留学」が3万8565人で、合わせて全体の7割以上に上る。実習生はもちろん、留学生にも出稼ぎ目的の外国人が数多く含まれる。つまり、「ビジネス関係者」の実態とは、ベトナム人や中国人などの出稼ぎ労働者に他ならない。

「例外」の「例外」で

 入管庁のデータからは、さらに驚く事実も明らかになる。今年に入って、ベトナム人実習生の入国が急増しているのだ。

 ベトナムから入国する実習生の数は、11月から12月にかけては毎週1000〜2000人前後だった。それが1月4日〜10日は5682人、1月11日〜17日は5042人と、2週間で1万人以上にも達した。そして同措置で入国できる最後の1月18日〜21日に至っては、6352人ものベトナム人実習生が入国している。この4日間で来日した外国人の実に6割以上がベトナム人実習生なのである。結果、11月以降に入国したベトナム人実習生は3万2305人を数えるまでになった。

 実は、今年に入って筆者のもとには、ベトナムの実習生送り出し業者関係者から、「日本への出国ラッシュが起きている」との情報が届いていた。その情報が、入管庁のデータで確認された格好だ。業者幹部の1人はこう話していた。

「日本がベトナム人の入国を3月末まで止めるという噂が流れている。だから実習生の送り出しを急いでいる。(日本側で実習生を仲介する)監理団体からも『来られなくなる前に早く送れ』と言われているのです」

 送り出し業者が実習生から受け取る手数料は、半分が出国直前に支払われる仕組みだ。無事に送り出せなければ、業者にとっては打撃となる。また、日本の監理団体にとっても、実習生が斡旋できなければ、受け入れ先の企業から月々の「監理費」が受け取れなくなってしまう。

 実習生自身にとってはさらに切実だ。日本で実習を希望するベトナム人は貧しく、送り出し業者へ支払う手数料を借金でまかなう。その額は日本円で100万円近くにも上る。

 業者が実習生から徴収する手数料に関し、ベトナム政府は上限を「3600ドル」(約37万5000円)と定めている。だが、「99パーセント守られていない」(業者幹部)のが実態だ。上限など守らなくても、業者がベトナム政府の官僚と賄賂でつながっている限りは、取り締まりを受けることもない。ベトナムで一党独裁を敷く共産党の幹部が、直接もしくは間接的に業者の運営に関与しているケースもよくある。

 実習生は、日本へ行けなければ借金の返済ができない。そのため年明け以降、日本への駆け込み入国が相次ぐことになった。

 一方、日本側にも「実習生」という低賃金の外国人労働者に対するニーズは依然として高い。

 そんな事情も影響し、菅首相が入国制限緩和の「一時停止」を発表した1月13日以降も、実習生らの来日は続いた。すでに日本のビザを取得している実習生や留学生などに限っては、21日までの入国を認めたからだ。例外的な措置に、さらなる「例外」を設けてのことである。

受け入れ拡大望む「菅」「二階」

 それにしても、なぜ菅首相は、自民党内の反対を抑えようとしてまで外国人の受け入れに執着したのか。

 菅首相は第2次安倍晋三政権で官房長官を務めていた頃から、外国人労働者の受け入れに積極的な発言を続けていた。たとえば、こんな具合だ。

「外国人材の働きなくして日本経済は回らないところまで来ている。高齢者施設をつくった私の知人も、施設で働く介護人材が集まらないと言っていた」(『西日本新聞』(2018年8月23日電子版)

 つまり、外国人労働者を欲する業界の立場から、受け入れ拡大を望んでいるわけだ。

 このスタンスを共有する幹部が自民党内にいる。「令和のキングメーカー」二階俊博幹事長である。

 二階氏は今、ベトナムに最も影響力のある政治家と言える。超党派の「日本ベトナム友好議員連盟」会長で、安倍政権当時の2016年、幹事長になって真っ先に訪問したのがベトナムだった。さらに昨年1月には、観光・旅行業界関係者ら1000人以上の訪問団を率い、現地へと赴いている。

 一政治家による外国訪問としては異例の規模だ。しかも訪問団には、民間業者に加え、田端浩・観光庁長官(当時)や田川博己・日本旅行業協会会長(当時)の他、森山裕・自民党国対委員長など党幹部、鈴木直道・北海道知事ら6知事も参加した。

 日本がベトナムから最も欲するのは「出稼ぎ労働者」だ。二階氏の訪越にも、出稼ぎ労働者を確保する目的があったと見られる。

 政府はこの前年、外国人労働者のため新たな在留資格「特定技能」を創設したが、受け入れは全く進んでいなかった(2019年12月25日『見込み外れ「特定技能外国人」なぜ増えないか「ベトナム人若者」の肉声』)。

 人材の送り出し国として最も期待するベトナムが、全く乗ってこないのである。日本側が掲げた「悪質業者の排除」という方針にヘソを曲げてのことだ。ベトナム政府関係者は「悪質業者」と一体化し、賄賂収入を得ている。だから簡単に「排除」するわけにはいかない。

 片やベトナムが日本に求めるのは、投資や観光客の誘致だ。そこで二階氏は業界関係者を引き連れ訪問し、出稼ぎ労働者の送り出しとのバーターを迫ったように映る。

 二階氏は現地で、グエン・スアン・フック首相とも会っている。そして会談後、「日本でのベトナム人の就労拡大と、日本で働くベトナム人技能実習生が安心して学べる環境の整備」に努めると述べている。また、「両国政府が悪質業者を徹底的に排除することで一致した」とも強調した。

 その後、菅首相も10月、首相として初の外遊先にベトナムを選んで訪問した。こうした与党、政府のツートップによるベトナム詣も功を奏してか、「ベトナム人の就労拡大」は実現した。だが、「実習生が安心して学べる環境」が整っていなかったことは、コロナ禍で相次ぐ彼らの解雇が証明している。また、両国政府が「一致した」という悪質業者の排除も全く進んではいない。

 二階氏ほどの実力者であれば、ベトナム政府に対し、制度の改善を強く求めることもできたはずだ。実習生が多額の借金を背負う状況がある限り、ベトナムからの実習生受け入れを停止すればよい。しかし、そうした圧力がベトナム側にかけられた形跡はない。それは、なぜなのか。

 二階氏の影は、外国人労働者の受け入れや政策現場で見え隠れする。「日本ベトナム友好議員連盟」の前会長である武部勤・元自民党幹事長は現在、ベトナムなどから実習生を受け入れる監理団体の代表を務めている。二階氏はその団体の「特別顧問」だ。つまり、現状の制度で利益を得ている側の「味方」なのである。また、自民党「外国人労働者等特別委員会」のトップである片山さつき・参議院議員は、二階派の一員だ。

 ベトナム人実習生の数は昨年6月末時点で約22万人にまで増え、実習生全体の半数以上に上っている。さらに11月からの3カ月弱で、新たにベトナムから約3万2000人の実習生が入国した。こうして実習生が増えれば、それだけ監理団体の収益は上がる。低賃金の労働力を求める産業界も大喜びだろう。また、ベトナムの腐敗官僚たちの賄賂収入も確保される。

 とはいえ、現状の制度は、実習生たちに「多額の借金」という犠牲を強いたうえで成り立っている。それは日本の国益、そしてベトナムとの長期的な関係に本当に好ましいことなのだろうか。

PCR検査すら受けず入国

 日本国内では、コロナ禍の影響で仕事を失う実習生が相次いでいる。その数は、昨年10月時点で4000人を超えていた。一部は別の実習先へ移って働いているようだが、10月以降も実習生の解雇は増えていると見られる。その裏で、ベトナム人を始め約5万6000人の実習生が受け入れられた。

 一方では、帰国を希望しながら日本へ留まっているベトナム人は「2万人」に上るとされる。帰りたくても、ベトナム政府が認めないのだ。

 片山氏が委員長を務める自民党の委員会が、11月17日付で発表した「緊急提言」には、こんな一文がある。

〈10月の菅総理のベトナム訪問においても、帰国を希望してもベトナム側の検疫事情でかなわず、2万人が国内滞留している事等を念頭に、日越定期便の再開が合意された〉

 だが、定期便は当時から現在に至るまで全く飛んでいない。在日本ベトナム大使館などのチャーター便は時々あったが、11月に日本から到着した便の客室乗務員にコロナ感染が発覚して以降、年明けまで運行されなかった。

 しかもチャーター便は、航空券の価格が高い。ベトナム政府は自国民を含めた海外からの入国者に対し、厳格な隔離体制を取っている。ベトナム人であれば軍の施設もしくはホテルで、2週間を過ごすことが義務づけられる。その費用込みで、航空券には約20万円の値段がついていた。いくら帰国を希望していても、貧しい実習生や留学生にはなかなか手が出ない。

 帰国困難者を助ける手段はある。帰国費用を日本側が負担するのだ。いくらベトナム政府が感染拡大に神経を尖らせていても、日本が費用を支払うのであれば、在日ベトナム人の帰国に「ノー」とは言えないだろう。

 かつて日本政府は、同様の政策を取ったことがある。2008年秋に「リーマンショック」が起き、ブラジルなど南米出身の日系人の失業が社会問題になると、1人30万円の「帰国支援金」制度を設け、母国への帰国を促したのだ。

 しかし今回に関しては、ベトナム人への帰国支援は難しい。一方で実習生ら出稼ぎ労働者を受け入れ続けながら、税金の投入に国民の理解が得られるはずもないからだ。

 菅首相が強い拘りを見せた外国人の入国制限の緩和措置――。この政策はコロナ禍における経済重視策という意味で、また盟友の二階氏と組んで進められた点でも「GoToキャンペーン」と似ている。

 その「GoToキャンペーン」は、現在の感染拡大を招いた要因として指摘される。

 そして入国制限緩和も、水際対策の甘さにつながった可能性がある。

 ベトナム人の実習生や留学生たちは今年初めまで、ベトナム出発前も、また到着した日本の空港でも、PCR検査すら受けず入国できていた。

 帰国困難に陥っている在日ベトナム人には、生活に困窮している者が少なくない。彼らは母国と日本双方の経済重視策に利用された末、見棄てられてしまった“棄民”と言える。

中でも、とりわけ悲惨な状況にあるのが、本連載で繰り返し取り上げている“偽装留学生”たちである。

カテゴリ: 社会 政治
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執筆者プロフィール
出井康博 1965年、岡山県生れ。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『日経ウィークリー』記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)を経てフリーに。著書に、本サイト連載を大幅加筆した『ルポ ニッポン絶望工場」(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『松下政経塾とは何か』(新潮新書)など。最新刊は『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)
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