もはや香港は統治能力を求められていない――「李家超・政務長官人事」の意味

執筆者:倉田徹 2021年7月15日
タグ: 香港 中国
エリア: アジア
保安局長から政務長官に異例の昇進を果たした李家超氏(C)EPA=時事
香港政府は6月25日、政府ナンバー2の政務長官に、警察等の内部治安を担当する保安局長を務めていた李家超(ジョン・リー)が就任する人事異動を発表した。これまでほとんどの場合キャリア官僚が務めてきた政務長官ポストに、初めて警察出身者が就任する異例の人事に、香港では驚きの声があがるとともに、その意味についての議論が巻き起こった。

 

公務員組織の最高位

 政務長官は返還前には布政司と呼ばれ、当時は「行政長官」と邦訳されてきたポストである。これは現在の政府トップの行政長官とは異なり、ロンドンから派遣されてくる総督を補佐する直属の部下であると同時に、香港の公務員組織の最高位とされた地位である。

 植民地統治の時代、香港では民主化が遅れ、民選政治家が行政府の高官を務めることはなかった。このため、公務員の高位の者は行政官の仕事に留まらず、総督とともに行政評議会という内閣に似た組織に加わり、高度な政治決定にも参与した。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
倉田徹(くらたとおる) 立教大学法学部政治学科教授。専門は現代中国・香港政治。1975年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。香港日本国総領事館専門調査員、日本学術振興会特別研究員、金沢大学人間社会学域国際学類准教授を経て、2013年から現職。 主な著書にサントリー学芸賞を受賞した『中国返還後の香港――「小さな冷戦」と一国二制度の展開』(名古屋大学出版会、2009年)、『香港 中国と向き合う自由都市』 (共著、岩波書店、2015年)、『香港の過去・現在・未来 東アジアのフロンティア』(勉誠出版、2019年)、『香港雨傘運動と市民的不服従 「一国二制度」のゆくえ』(社会評論社、2019年)、『香港危機の深層 「逃亡犯条例」改正問題と「一国二制度」のゆくえ』(東京外国語大学出版会、2019年)。
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