非核三原則の見直しと「核共有」は、東アジアの拡大抑止モデルとなりうるか――核をめぐる安全保障課題と日本の対応

執筆者:村野 将 2022年3月11日
エリア: アジア
安倍晋三元首相を中心に「核共有」のタブーなき議論を求める声が高まっている   (c)時事
ロシアの核恫喝を目の当たりにして、「核共有」を取り入れよとの議論が俄に脚光を浴びている。しかし、日米の拡大抑止強化で重要なのは、核兵器そのものの共有ではない。日本がNATO型核共有に踏み出せば、むしろ東アジアの「危機における安定性(crisis stability)」を著しく悪化させる危険がある。 (この記事の前編『ロシア「核恫喝からのエスカレーション」を止める唯一の方法』は、こちらのリンク先からお読みいただけます

   ウクライナ危機でロシアがとったエスカレーション抑止戦略は、台湾有事朝鮮半島有事においても当てはまる。現状変更勢力である中国・北朝鮮にとって、有事において米国の介入を阻止することは決定的に重要だ。そのため、米軍の作戦支援基盤となる日本社会をミサイルで脅し、「米国(と台湾・韓国)を支援しなければ、日本を攻撃対象とすることはない」として、日本世論の「巻き込まれる恐怖」を増幅させようと揺さぶりをかけてくることは容易に想像できる。そして、その脅しが通用しなければ、実際に航空基地や港湾などを攻撃して、日本の支援能力を無力化することを考えるであろう。

   こうした中国・北朝鮮による心理的恫喝や物理的妨害に屈しないためには、日米の抑止力が効果的に発揮される状態を維持・強化しておく必要がある。そのためには、どのような具体策が有効なのか。

   その一例として、NATO(北大西洋条約機構)型の「核共有(nuclear sharing)」を日本でも取り入れるべきとの主張が度々なされてきた。

「核共有」とはどのようなメカニズムか

   核共有とは、NATO加盟国の一部に米国が管理する非戦略核兵器1(B61核爆弾)を平時から前方配備しておき、危機・有事が発生した場合には事前に策定した共同作戦計画に基づいて、米国大統領の許可の下で核爆弾を供与、同盟国の核・非核両用機(Dual Capable Aircraft:DCA)がそれを搭載して核攻撃を行うというメカニズムである。米・NATO間では現在でも、100発程度とされる非戦略核の配備と、その協議枠組みとしての核計画部会(Nuclear Planning Group:NPG)が継続されている。

   またこれに関連して、非核三原則のうち「持ち込ませず」の原則を緩和し、米国による核持ち込みの意義を検討するべきとの提案がなされることもある。

   では、米国による核持ち込みやNATO型の核共有モデルを今日の日本に適用させた場合、地域の拡大抑止構造にどのような影響を与えることが考えられるのか。

   これを考えるには、まず現在の米国がどのような核戦力態勢をとっているのかを正確に理解する必要がある。米国の核態勢は、いわゆる「核の三本柱」(ICBM=大陸間弾道弾・SLBM=潜水艦発射型弾道ミサイル・戦略爆撃機)に、グローバルに展開可能なDCAを加えた各種運搬手段と、戦略・非戦略核兵器の組み合わせによって構成されている。

   これらのうち、米国本土に配備されるミニットマン3・ICBM、そして第二撃能力としての秘匿性を重視するオハイオ級戦略ミサイル原潜(SSBN)がその位置を意図的に露呈することは考えにくいため、これらは前方展開を前提とする核共有・核持ち込みのいずれのモデルにも適さない。

   同様に、バンカーバスター型の戦略核爆弾(B61-11)を運搬可能なB-2ステルス爆撃機はその航続距離と希少性(配備数:20機)から、また射程2500kmを超える空中発射型核巡航ミサイル(ALCM:AGM-86B)を運搬可能なB-52は、その利点である防空圏外からのスタンドオフ攻撃能力を犠牲にし、駐機中を先制攻撃されるリスクを負ってまで、在日米軍基地に常時前方展開することは想定しにくい。

   更に、艦載機に搭載される核兵器や艦船に搭載する核トマホーク(TLAM-N)はいずれも既に退役・解体されている上、2018NPRで導入を検討するとした海洋発射型核巡航ミサイル(SLCM-N)については予算承認がなされておらず、開発の目処は立っていない。そのため、かつて言われていたような核搭載艦船による日本への寄港という形での「核持ち込み」は今日では起こりえない。

   さらに言えば、現在米国が開発している中距離ミサイルは全て通常弾頭用であり、核弾頭の装備は想定していないことを国防長官を含めた政府高官が再三強調している。

   したがって、現在考えられる唯一のオプションは、DCAと非戦略核爆弾(B61-3/-4/-12)の前方展開という組み合わせに限られる。こうした前提で日本が米国との核共有を行うとすれば、2010年から始まった日米拡大抑止協議を格上げし、共同核作戦計画を策定。その上で在日米軍基地のいずれかに米軍が管理するB61用の貯蔵庫を設け、それを有事の際に日本に提供するよう要請し、それを「米国大統領が許可すれば」、最終的に航空自衛隊のF-35Aが核攻撃を行うという形式が想定しうる。

中国・北朝鮮には「先制核攻撃の準備」と映りかねない

   しかし、このように近い将来の核態勢下で実現しうるオプションを具体化してみると、NATO型の核共有は、政治・軍事両面のハードルが著しく高いと言わざるをえない。言うまでもなく、非戦略核兵器を常時国内に備蓄することに対しては、極めて大きな政治的反発が予想される。あるいは、NATO型の核共有を志向する動機が「米国が核報復してくれるかどうか信用できない」というものであっても、核共有メカニズムにおいて最終的に核使用の決定権を持つのは米国大統領である。つまり、日本の総理大臣が核使用を求めたところで、米国大統領が「NO」というかもしれないという事実は、NATO型の共有においても、現在の日米同盟における拡大抑止枠組みにおいても変わりないのである。

   また、日本から飛び立つDCAが北朝鮮や中国上空に達するには1時間以上かかるため、弾道ミサイル発射の兆候を察知した段階で、即時的な武装解除を目的とした核攻撃を行うにはDCAは意味をなさない。

   他方、軍事アセットを標的とするのではなく、中国・北朝鮮の都市部に対する報復攻撃を目的とするのであれば、「非戦略核」とされるB61-3であっても出力調整により最大170キロトン(広島型原爆の約13倍)の威力を発揮できる。しかしその場合には、唯一の被爆国である日本の政治指導者が、自衛隊に対して民間人の大量殺戮を意味する報復を命じる覚悟を問われることになる。

   もちろん、NATOの核共有が現在でも維持されているのと同様、非戦略核の前方配備は米国のコミットメントの象徴として、ある種の「安心」を得ることはできるかもしれない2

   しかし、中国や北朝鮮側から見れば、緊迫した情勢下における非戦略核の展開は先制核攻撃の準備と映りかねない。何より、F-35のような高度なステルス性を持つ核攻撃機を出撃後に迎撃することには不確実性が伴う。そのため、日本に配備された核攻撃能力を確実に無力化するのであれば、F-35が飛び立つ前、つまり地上に駐機している段階で先制攻撃を仕掛けることが最も効率的だ。当然、頑丈に防護されているB61の貯蔵庫の破壊に用いられるのは核ミサイルであろう。これは抑止論で言う「脆弱性の窓」と呼ばれる問題であり、「危機における安定性(crisis stability)」を著しく悪化させる危険性がある。

   本来こうした形での先制攻撃の誘因は、前方配備の非戦略核がある種の「トリップワイヤー(仕掛け線)」としての役割を果たすことにより、米国の戦略核報復を促すため、高次の抑止構造が機能していれば、トータルな抑止計算の上では抑制されるはずである。しかし、近年中国や北朝鮮はICBM戦力を増強することによって、自らの対米打撃能力に自信をつけてきている。もし彼らが米国からの報復を抑止できると「誤認」した場合には、上記のような形で限定核戦争の戦端が開かれる可能性も否定できないのである。こうしたDCAの脆弱性と危機における安定性に起因する問題は、核共有を行わずとも、日本や韓国に米軍のDCAと非戦略核を前方配備するケースでも起こりうることに留意する必要がある。

   これらの点を考慮すると、DCAをベースとするNATO型の核共有は、日米の拡大抑止を強化するための最善策とは言い難い。

韓国・台湾ともエスカレーション管理の連携が不可欠

   今日、日米の拡大抑止を強化する上で重要なのは、核兵器そのものの共有というよりも、平時からグレーゾーン、そして有事において、具体的な抑止力を発揮させるための意思決定プロセスの緊密化である。

   先に述べたように、現状変更勢力が仕掛けてくるエスカレーション抑止戦略に対抗するためには、こちらもエスカレーション・リスクを過度に恐れることなく、それを適切に管理するための戦略と手段が必要となる。またこれらのエスカレーションは、軍事分野と非軍事分野、核と非核、キネティック(運動性の兵器)とノンキネティック、陸海空・宇宙・サイバー・電磁波などのように、領域を跨いで生じることも想定される。

   具体的な例を挙げると、中国と北朝鮮の中距離ミサイル戦力は、原則として全て核弾頭と通常弾頭のどちらも搭載することのできる両用ミサイルである。有事の際に、米軍がこれらの移動式ミサイルを無力化することを試みる場合、あるいは自衛隊が長距離打撃能力を用いて、これらのミサイルに関連する指揮統制システムや通信設備などを攻撃する場合、相手はそれを核戦力への攻撃と認識して、状況を核レベルにまでエスカレートさせるリスクも否定できない。

   つまり、中国・北朝鮮の中距離ミサイル戦力に対処することを考える以上、日米は常に核エスカレーション・リスクを視野に入れて、それを適切に管理することが求められる。

   そのためには、拡大抑止にかかる共同演習や、核の先制使用を含む作戦計画を平時の段階から策定しておくことが欠かせない。核使用を伴う米軍の作戦は、インド太平洋軍などの戦闘軍司令部ではなく、戦略軍がその指揮権を持つとともに主要な計画立案を行っている。そこで日米拡大抑止協議の内容を日米ガイドラインにおける共同計画策定作業と連関させ、グレーゾーンから核使用を含む高次のエスカレーションラダーをシームレスな形で構築し、核オプションのより具体的な形での保証を促すべきである。またそれらの計画を基に、在日・在韓米軍、インド太平洋軍、戦略軍などを交えた日米共同演習を繰り返し、実戦上の課題を常に点検・共有しておくことが望まれる。この中では、危機時におけるDCAの前方展開リスク、グアムにおけるDCAや戦略爆撃機、SSBNの展開頻度を高めることの軍事的・政治的効用、更には低出力SLBMを移動式ミサイルを制圧するための最後の手段として適切なタイミングで使用する必要性などについても、個別の作戦計画に照らして検証する必要がある。

   また、有事におけるエスカレーション管理は、有事の最たる当事者である韓国や台湾とも密接に連携して行わなければならない。台湾や韓国の行動が日本へのエスカレーションを招くこともあれば、日本の行動が台湾や韓国にとって受け入れ難いエスカレーションを引き起こすことも考えられるからである。有事における適切な対応は、平時からの密接な計画立案プロセスを共にしていないことには実現し得ない。もちろん、日米台・日米韓はNATOのような多国間同盟ではなく、単一の統合指揮統制メカニズムも存在しない。しかし、NATOが各国の防衛力整備や有事における作戦計画をどのように立案・調整しているかは参考にすべき部分があるだろう。

 

【註】

1近年米欧の戦略コミュニティでは、「いかなる核兵器であっても、使用されれば戦略的影響をもたらす」という観点から、いわゆる「戦術核兵器」という呼称は用いられなくなっており、現在では米露の新START条約の規制対象となっている兵器を「戦略核兵器」、それ以外は「非戦略核兵器」と呼び分けをするようになっている。

2現在のNATOでは、核共有を通じて保管されている在欧非戦略核兵器とDCAを実際に用いた作戦計画は存在しないとされる。

 

 

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
村野 将 米ハドソン研究所研究員(Japan Chair Fellow)。岡崎研究所や官公庁で戦略情報分析・政策立案業務に従事したのち、2019年より現職。マクマスター元国家安全保障担当大統領補佐官らと共に、日米防衛協力に関する政策研究プロジェクトを担当。専門は、日米の安全保障政策、核・ミサイル防衛政策、抑止論など。著書に『新たなミサイル軍拡競争と日本の防衛』(並木書房,共著, 2020年)、“Alliances, Nuclear Weapons and Escalation:Managing Deterrence in the 21st Century”(Australian National University Press, 共著、2021年)などがある。
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