LNG「ポートフォリオ買主」として台頭するメジャーの経営戦略

執筆者:小山 堅 2023年4月6日
タグ: 脱炭素
エリア: 北米 ヨーロッパ
米エクソンモービルのガソリンスタンド(米サンフランシスコ・2022年7月5日) ©AFP=時事
国際的なエネルギー価格の高騰はメジャー5社に莫大な利益をもたらした。他方でメジャーは、非ロシア産ガスの供給拡大を含むエネルギーの安定的確保と、侵攻前から続く「脱炭素化」の取り組みを両立させる課題にも直面している。こうした中、一定の長期的コミットメントと顧客を確保することでLNG供給プロジェクトの投資決定に貢献する「ポートフォリオ買主」としてのメジャーの役割も注目される。

 

 2022年は国際エネルギー市場がウクライナ危機によって激震に晒された1年であった。原油価格をはじめ、天然ガス・LNG(液化天然ガス)、石炭、そして電力価格の全てが高騰し、激しく変動した。またウクライナに軍事侵攻したロシアに対して、西側諸国は一致して極めて厳しい経済制裁を科し、返り血を覚悟でエネルギー分野に対しても制裁を実施・強化した。

 こうした展開は、当然のことながら、国際エネルギー産業全体に対して、その経営状況や戦略対応に甚大な影響を及ぼすことになった。国際エネルギー産業には様々なプレイヤーが存在するが、中でも代表的存在として常に注目の的となってきたのが、巨大な規模と経営力、世界的なプレゼンスを誇り、かつてはエネルギー市場全体に君臨する存在でもあったメジャーである。今日、長い歴史の中での栄枯盛衰・統合再編を経て、以下の5社がメジャーと位置付けられている。すなわち、ExxonMobil(米)、Shell(英)、bp(英)、Chevron(米)、TotalEnergies(仏)の5社である。

2022年の純利益は5社合計で約20兆円

 この5社の2022年の石油生産量は計831万B/Dであり、世界の石油生産の約8%を占めている。70年代の産油国による国有化などで上流権益を取り上げられるまでに築いていた圧倒的な生産量、あるいは石油・ガス上流部門における地位こそ失われたものの、民間企業としてのエネルギー市場における影響力はなお巨大である。以下では、2022年の国際石油市場の激動を通して、メジャーの経営にどのような影響が生じたのか、その中でメジャーがどのような対応戦略を取ろうとしているのか、考察してみたい。

 メジャーの事業は、石油・ガス開発などの上流から、石油精製や石油製品販売、石油化学などの中下流、ガス・電力事業、再生可能エネルギーなどまさに多岐にわたるが、その収益源として最重要なのは石油・ガスであり、特に上流部門である。従って、原油・ガス・LNG価格などが高水準にあれば、生産量に大きな変化がない限り、当然のことながらメジャーは莫大な利益を上げることになる。

 2022年は、まさにそれが象徴的に発生した年であった。メジャー最大手のExxonMobilの純利益額が前年の230億ドルから557億ドルに大幅増加したことに代表される、高収益の決算状況となった。5社合計での2022年純利益は約1.516億ドル(約20兆円)に達している。原油価格が年前半は概ね1バレルあたり100ドルを超える高水準で推移し、年後半も低下したとはいえ70~80ドル前後であったこと、ガス価格も世界的に上昇し特に欧州では年後半に原油換算で600ドル近い未曽有の超高値となったことなどが、大きく純利益の押し上げに貢献することとなった。

ロシアビジネス撤退では損失計上

 資源価格の高騰が利益押し上げに貢献する構造は各社共通であるが、もう一つ別の大きな影響がウクライナ危機の余波としてメジャーにも生じている。それは、厳しい経済制裁が科せられたロシアにおけるビジネスからの撤退などがもたらす影響であり、その最大にして最も象徴的な事例がbpに見られた。

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
小山 堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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