オペレーションF[フォース] (11)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第11回

執筆者:真山仁 2023年5月6日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事/米海軍提供[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】保守党政調会長で財政再建派の都倉も、防衛費増額に強い関心を見せた。周防家の食卓でも、中国の脅威と日本の抑止力を巡り、子供たちまで侃々諤々の議論を戦わせていた。

 

Episode2 傘屋の小僧

 

8

 日を追うごとに、防衛費増強問題が熱くなってきた。

 派閥の領袖を失った保守党の梶野派は、「元総理の遺志を継いで日本の安全を死守する」として、防衛費をGDPの2%に引き上げるべしと全国で街頭演説を展開した。

 また、普段は「主婦目線重視」を標榜するワイドショー番組が、「日本をウクライナ化しないために、防衛費を増額せよ」と訴えた。それを受けてSNSでは、「軍事費増額反対!」と訴えるコメントも増えたが、最終的には「国防!」の声が日増しに強まっていた。

 平和主義者を標榜するつもりはないが、この社会の流れに周防は戦[おのの]いていた。

 周辺各国との戦争勃発の危機が迫っているわけではないのに、「戦争が起きるかも」という方向に国民感情が流されている。

 世論の動きに押されて、省内にも微妙な風が吹き始めている。主計官の松平はまったくぶれないが、主計局の職員や主税局からも「防衛費増額は止むなしなのか」という意見が増えた。

 何より、与党議員からの呼び出しが増え、周防ら主査は連日、議員会館を飛び回って状況説明に時間を費やした。

 多くの議員は、財務省の意向を知りたがり、「2%などとケチくさいことを言わず、もっと増やせ」と主張する声が次々上がった。

 また、防衛省から「希望予算に優先順位[プライオリティ]をつけた」という連絡があり、この日の午後、折衝の場が持たれた。

 防衛省サイドは前回と同じ顔ぶれが揃ったのだが、一様に顔に疲労が滲んでいた。

 各担当主査が分厚い文書を受け取り、周防は、改訂された「防衛力整備計画」に目を通した。

 ペーパーをめくる音だけが30分近く続いた後で、最初に口を開いたのは本岡だった。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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