恐怖指数(VIX指数)に表れない米市場「超短期オプション拡大」と「泰然自若に似た判断停止」

執筆者:滝田洋一 2023年5月14日
エリア: 北米
市場のリスクは米政治に根ざしている[G7財務相・中央銀行総裁会議が開かれた新潟市内で記者会見するジャネット・イエレン米財務長官=5月11日](C)時事
「Xデー」は6月1日ともされる政府債務上限問題、燻り続ける銀行危機など不安要素が引きも切らない状況ながら、米金融・株式市場に不思議な平穏が広がっている。投資家の心理状態を数値化したVIX指数を見る限り、まさにその姿は「泰然自若」。だが、妙だ。新たに発表される景気指標や当局者の発言には、毎日敏感な一喜一憂が続いている。このギャップのカラクリはどこにあり、どのようなリスクが想定されるか。

 米国の黄金時代1950年代の映画「理由なき反抗」。ジェームス・ディーンらが演じる不良少年が崖に向かってクルマを走らせ、最初にブレーキを踏んだ相手を「チキン(臆病者)」と罵る。お馴染みの「チキンゲーム」が、よせばいいのに米議会で繰り広げられている。

 ゲームの主戦場は崖ではなく、米政府が法律上認められている借金の天井。「債務上限」の引き上げが認められるかどうかだ。このままでいけば、6月1日ごろにも米政府の借金の額は債務上限に達してしまい、借りたお金を返せなくなるデフォルト(債務不履行)に陥る。

米国庫残高は1年前の3分の1

 この手の話にありがちなホラーストーリーと思われる向きも多いだろうから、米国の財政の財布の中身を可視化しておこう。

 政府の財布を国庫というが、財布に入っているおカネの残高が国庫残高である。国庫残高は税金や社会保険料が入るたびに膨らむが、政府が予算を使うごとに減っていく。そして国庫がマイナスに陥るというのは、財布の中身がすっからかんになる状態。つまり借りたカネを返そうにも返せないデフォルトである。

 ならば足元の米国の国庫残高はといえば、23年5月8日時点で2151億ドル(約29兆円)。1年前の22年5月8日時点の国庫残高は6020億ドルだったので、その3分の1にとどまる。株式市場がコロナバブルに沸いた21年分のキャピタルゲイン(値上がり益)への税収が22年にはドンと入ってきた。それに対し、22年は米連邦準備理事会(FRB)による利上げで米国株はもたついたので、23年にはキャピタルゲインの税収が細った。

 これが22年と23年の4月後半の国庫残高の明暗を分けている。その一方で、キャピタルゲイン税収が細っても、予算に計上した歳出は容赦なく出ていく。5月から6月前半にかけては、国庫の入りよりも出の多い時期に当たる。仮に今年5月9日以降、国庫残高が昨年と同じようなペースで減っていくとどうなるか。米財務省の国庫統計をもとに、みずほリサーチ&テクノロジーズに試算してもらった。……

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
滝田洋一(たきたよういち) 1957年千葉県生れ。日本経済新聞社特任編集委員。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」解説キャスター。慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了後、1981年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ支局、経済部編集委員、米州総局編集委員などを経て現職。リーマン・ショックに伴う世界金融危機の報道で2008年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。複雑な世界経済、金融マーケットを平易な言葉で分かりやすく解説・分析、大胆な予想も。近著に『世界経済大乱』『世界経済 チキンゲームの罠』『コロナクライシス』など。
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