インド野党「26党大連合」は「モディBJP一強」を崩せるか

執筆者:緒方麻也 2023年8月3日
タグ: インド
エリア: アジア
大連合「INDIA」を結成した面々。左から国民会議派のカルゲ総裁、西ベンガル州のバナジー首相、ビハール州のクマール首相 Wikipediaより
24年4~5月に投票を実施する総選挙まで8カ月、最大野党「国民会議派」をはじめとする26党が連合して「インド国家発展包括的連合(INDIA)」が誕生した。小選挙区制の「死票」を抑えられれば、議席の大幅増が期待できる。巨大州の中央に対する政治的影響力が拡大する中、そうした州の政権党は国政でも優位を得るだろう。ただし、INDIAの候補者調整が困難を極めるのは確実であり、有権者の「モディBJP」支持は根強い。

 

 ナレンドラ・モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)の「3連覇」が濃厚となっている2024年春の総選挙を目指し、最大野党国民会議派(コングレス)や有力地方政党など26党による野党連合が7月中旬、ついに成立した。全国規模で野党候補の共倒れを防ぐ選挙協力や、統一首相候補の擁立、共通政策の公表などさまざまな難題が待ち受けるが、前回2019年の総選挙での得票率を見れば、選挙協力が成功すれば野党は理論上大幅な議席の積み増しが可能となる。

 野党連合は、当初の旗振り役だった南部テランガナ州の政権党インド国民会議(BRS)のK・チャンドラセカーラ・ラオ党首(同州首相=県知事に相当)が加わらないなど、不安混じりの船出となったが、モディ一強の政治情勢において野党が一矢報いる最後のチャンスとなりそうだ。

得票率ではBJP超えも

 政党連合は「インド国家発展包括的連合(INDIA)」という、まさに狙いすましたネーミングだ。定数543議席の連邦下院で50議席を持つ国民会議派のほか、同24議席を保有し南部タミルナドゥ州で政権を握るドラビダ進歩同盟(DMK)、西ベンガル州首相の剛腕女性政治家ママタ・バナジー氏が率いる全インド草の根会議派(TMC)、首都デリーと北西部パンジャブ州で政権を担う新興政党・庶民党(AAP)、今回の政党連合の仕掛け人となった人気政治家ニティシュ・クマール氏率いる北部ビハール州の政権党ジャナタ・ダル統一派(JD-U)、国民会議派政権時代には一時閣外協力していたインド共産党マルクス主義派(CPI-M)など左翼政党4党も加わっている。

 バナジー氏は2008年、当時左翼連合が政権を握っていた州政府に打撃を与えるためタタ自動車の西ベンガル州進出に激しく反対、計画を白紙撤回に追い込んだ。2011年の州議会選では34年間続いた左翼政権を打倒し、州の政権を奪取したことでも知られる。

 クマール氏は8期にわたってビハール州首相を務め、巧みな手腕で連立相手を変えながら生き残ってきた。かつて最貧州のひとつだったビハールのガバナンスと治安を立て直し、禁酒法の施行では夫のアルコール依存に悩む多くの女性から喝采を浴びた。

M・K・スターリンDMK党首 Wikipediaより

 DMK党首のM・K・スターリン氏は、タミルナドゥ州政界に君臨した故M・カルナニディ氏の子息。外資フレンドリーな政策を導入し日本や韓国企業などの誘致に成功している。

 今回野党連合に加わった政党が政権を担っている州はインド28州のうち計11州を数える。これはBJPとその友党の15州に迫る数字だ。2019年の前回総選挙の得票率ではBJPの37%に対し国民会議派は20%と水を開けられたが、両党以外の地域政党などの得票率合計は43%に達していた。

 有力誌「インディア・トゥデイ」の世論調査「ムード・オブ・ザ・ネーション(MOTN)」(23年1月実施)結果によると、BJPと「国民会議派以外の政党」の支持率は39%で拮抗している。この「その他」政党の多くが今回野党連合に加わっているため、小選挙区制独特の共倒れによる「死票」を最小限に抑えれば、計算上野党は議席を大幅に増やすことができる。

 国民会議派総裁を退いて久しいが、いまなお党のシンボルとして前面に立つネール・ガンディー家4代目のラフル・ガンディー元総裁は政党連合について「これは野党とBJPの戦いではない。インドという国のアイデアそのものについての戦いだ」と宣言、ヒンドゥー色を強めるBJP政権に対し、自由と世俗主義を守る考えを強調した。会議派のマリカルジュン・カルゲ総裁は「我々は民主主義を救うため政治的立場の違いを乗り越えた」と述べた。

 現地報道によると、「INDIA」の本部はデリーに置き、ラフル氏の母ソニア・ガンディー前国民会議派総裁やバナジー、クマール、スターリン各氏がまとめ役を担う見通しだ。

 こうした野党共闘を模索する動きは今回が初めてではない。2019年の総選挙前には、南部アンドラプラデシュ州の有力政治家で地域政党テルグ人国家党(TDP)のチャンドラバブ・ナイドゥ党首を中心に野党結集が現実味を帯びたが、国民会議派との共闘を嫌った左翼政党などの離反で幻に終わった経緯がある。今回、5年近い時を経てひとまず大同団結が実現した背景には、いずれの政党も「BJPモディ一強」の長期化に強い危機感と焦りを感じていたからだろう。

候補者調整が困難な「身勝手な連合」?

 しかし、次期総選挙まで8カ月となる中、新生「INDIA」は困難な課題に立ち向かう。最大の難関は立候補者の調整だ。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
緒方麻也(おがたまや) ジャーナリスト。4年間のインド駐在を含め、20年にわたってインド・パキスタンや南アジアの政治・経済の最前線を取材、分析している。「新興国において、経済成長こそがより多くの人を幸福にできる」というのが信条。
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