自軍を信頼できない習近平に武力行使のオプションはあるか
Foresight World Watcher's 4Tips
今週もお疲れ様でした。中国の李尚福国防相の動静が途絶えてから今日でちょうど1カ月がたちました。8月には「ロケット軍」の司令官と政治委員が突如交代し、同軍の10人以上の幹部が取り調べを受けているとも伝えられます。人民解放軍と中国共産党の間の特殊な政軍関係は中国情勢を捉える最重要のポイント。その習近平体制における機微を米国防総合大学(NDU)国家戦略研究所(INSS)のジョエル・ウースナウが分析しています。本欄では要旨を圧縮してお伝えしますが、中国が武力行使に踏み切る可能性にこの混乱がどのような影響を持つかまで視野に収めるこの論考は、ぜひ原文を読まれることをお勧めします。
フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事、皆様もよろしければご一緒に。
Why Xi Jinping Doesn't Trust His Own Military【Joel Wuthnow/Foreign Affairs/9月26日付】
「ここ2カ月の間に、国防相や大陸間弾道ミサイル(ICBM)部隊の指導者など中国・人民解放軍の高級将官が相次いで表舞台から姿を消した。習近平国家主席が解放軍を支配していることや、その就任以来続く不正行為の根絶への冷酷なコミットメントを踏まえれば、彼らの失踪は驚くべき事態だ」
「習と中国共産党は長い間、解放軍にかなりの自治権を認めてきた。解放軍に高度な独立性を認めることは、習と中国共産党への政治的な服従を確保するのに役立つが、文民によるチェック・アンド・バランスがないため、不正行為や説明責任の欠如という膿が生じる条件にもなっている。最近の粛清の詳細はまだ不透明だが、一部の解放軍最高幹部に対する習の信頼の欠如を反映している」
これは、米国防総合大学(NDU)国家戦略研究所(INSS)の上級研究員、ジョエル・ウースナウ(「ウスノフ」との日本語表記もあり)が同「フォーリン・アフェアーズ」誌サイトに寄せた「なぜ習は自軍を信頼していないのか」(9月26日付)の書き出しだ。
人民解放軍が国家や党による完全な統制のもとにないことはよく知られ、「1990年代には軍の調達エージェントが高級車の輸入・販売を手がけるなど、悪名高い事件が起きた」と、ウースナウも紹介している。こうした「高いレベルの自治」を軍に与えたのは鄧小平(「文民統制」を進め、国政から軍を遠ざける代償として“自由”を強化した)で、後継者である江沢民と胡錦濤は、軍の綱紀粛正に苦労した。
「習は前任者たちのテーマを引き継ぎ、よりクリーンでプロフェッショナルになることを解放軍に奨励している。[中略]一方で習は、外部当局の介入をほとんど受けずに、PLAが自ら警察活動を続けることを認めた」
「習がこのような自主権を認めた重要な理由は、軍からの支持を獲得し、維持する必要があったためだ。習は、腐敗した将校や不誠実であるかもしれない将校のネットワークを根絶やしにする決意を固めていたが、自らの権力を強化し、1950年代以降で最も広範なものとなる軍の再編を実行するには、上層部からの支持が必要だった」
その支持を得て軍の再編と強化に乗り出すことのできた習が、今度は不正の追及を通じて軍の統制に転じるため、高級幹部の粛正に着手した――李尚福国防相をはじめとする人民解放軍の高級幹部の“失踪”はこのように解釈できそうなのだが、人民解放軍の統制強化は簡単ではなく、今このタイミングで手をつけることは習にとってマイナスにさえなりうるとウースナウは見ている。……
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