AIのルール作りは誰がイニシアチブを取るのか|須藤修・中央大学ELSIセンター所長(4)
長野光と関瑶子のビデオクリエイター・ユニットが、現代のキーワードを掘り下げるYouTubeチャンネル「Point Alpha」。今回は、AIの使用や開発におけるルール作りについて、東京大学名誉教授・須藤修氏に話を聞いた。 ※主な発言を抜粋・編集してあります。
AIが生む新しいアルゴリズムのリスク
──欧州、アメリカ、中国などは生成AIの使用・活用に関して、アクセルとブレーキを踏み分けている印象があります。日本はどのような政府対応をしているのでしょうか?
「生成AIの能力を測る上で『パラメータ』という言葉が使われますが、これは人間でいうところの脳のシナプスのようなものです。シナプスはニューロンをつなげ、パルス信号を送り、脳の様々な領域が相互作用を始めて、記憶が構築されたり、判断力が付いたりして賢くなる」
「人間のシナプスの数は1人あたり平均100兆個ほどだと言われています。GPT-4はおよそ5000億パラメータです。これに対して、日本の開発状況を見ると、情報通信研究機構(NICT)が開発を進める生成AIのパラメータ数は400億です。そして、東京工業大学、東北大学、理化学研究所、富士通など、産学が連携して1000億程度のパラメータ数の生成AIの基盤となる大規模言語モデルの開発を進めています」
「現在のアメリカのAI開発における主流は5400億パラメータとも言われ、まだとても日本は追いつくことができません。しかし、まずはアメリカの真似をしてみて、どのような特徴量(AIに学習させるデータの特徴を定量的な数値として表現したもの)を選んで重みづけをしていくのかといった判断プロセスを解析しなければなりません。そうやって徐々にレベルを上げていきたい。これが、日本の政府や研究所、そして、企業が共有している方向性です」
「コンピュータ科学や認知心理学の研究者で、AIの第一人者として知られるジェフリー・ヒントン氏も述べていますが、100兆個のシナプスを持つ人間よりも、5000億から1兆パラメータを持つAIのほうが、学習能力が高い場面が見られます」
「いわゆる『創発』と呼ばれるものですが、人工知能の中で、想定外の新しいアルゴリズムが生み出されている可能性があり、ヒントン氏はこの発見からAIの未来に対して悲観的になりました。『私たちはこれをコントロールできるのか』という疑問を抱き、『AIによる絶滅のリスクの軽減は、パンデミックや核戦争などの社会規模のリスクと並んで、世界的な優先事項であるべきだ』というステートメントに他のAI開発者等と共にサインしたのです」
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