「金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は戦争に踏み切る戦略的決断を下した」との警告が2024年初めに著名な北朝鮮問題専門家、ロバート・カーリン、ジークフリート・ヘッカー両氏から発せられた。二人の診断に対しては既に様々な異論――戦争開始は米韓両国の反撃による金正恩体制の終焉を招くため、金委員長はそうした判断はしない、北朝鮮によるロシアへの砲弾やミサイルの提供は戦争準備に反する動きである等――が示されたが、戦争には至らないまでも南北の軍事的衝突の可能性が高まっているという点で、多くの専門家の2024年の情勢見通しは一致している。本稿では関連する2つのリスクについて検討した上で、それらに対して日本はどう備えるべきか、関係改善が進む韓国との連携を念頭に考えてみたい。
「核のリスク」の意図せぬエスカレーションを防ぐ
第1に備えるべきは「核のリスク」である。朝鮮半島で核戦争の危険が差し迫っている、ということを言おうとしているのではない。北朝鮮と韓国が共に核使用に関するレトリックとそれに伴う措置を加速化させている中で、この地域の安全保障環境が一層不安定かつ不透明になっており、不測の事態を招きかねない状況にあることを指摘したいのである。
北朝鮮は21年1月の朝鮮労働党第8回大会でいわゆる国防力強化5カ年計画を採択して核戦力の増強に邁進しており、近年は核兵器の使用を念頭においた言動を繰り返している。12年には既に「核保有国」であることを憲法に明記したが、23年9月の憲法改正では「核兵器の発展を高度化する」ことを盛り込んだ。それに先立つ22年9月には、最高人民会議で核兵器の使用条件などを定めた核戦力政策に関する法令を採択している。
加えて、金委員長は韓国に対する戦術核の使用をうかがわせる発言を行うようになった。最近では23年12月の大陸間弾道ミサイル「火星砲18」型の発射訓練後に、「敵が核を持って挑発する時には躊躇なく核攻撃も辞さない」との意思を見せたし、……
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