無極化する世界と日本の生存戦略 (11)

高まる南北朝鮮「軍事的衝突リスク」にどう備えるか

執筆者:西野純也 2024年2月29日
エリア: アジア
核使用シナリオを含む形で米韓合同軍事演習がこの夏に行われれば、朝鮮半島の軍事的緊張は最高潮に達するかもしれない[大陸間弾道ミサイル「火星砲18」の発射準備状況を視察する金正恩委員長=朝鮮中央通信発表、撮影日・場所不祥](C)AFP=時事/KCNA VIA KNS
北朝鮮が戦術核の使用をうかがわせるメッセージを発し、「力による平和」を掲げる韓国でも核開発賛成の世論が高まっている。南北指導者の発言は慎重な条件付けがされており、「核戦争の瀬戸際」と短絡するのは誤りだが、事態が双方とも意図せぬ形でエスカレーションするリスクは高まっている。朝鮮半島の緊張は、北朝鮮を媒介にした中露の接近に結びつく可能性もあるだろう。この安全保障環境の変化に日本はどう臨むべきか。

「金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は戦争に踏み切る戦略的決断を下した」との警告が2024年初めに著名な北朝鮮問題専門家、ロバート・カーリン、ジークフリート・ヘッカー両氏から発せられた。二人の診断に対しては既に様々な異論――戦争開始は米韓両国の反撃による金正恩体制の終焉を招くため、金委員長はそうした判断はしない、北朝鮮によるロシアへの砲弾やミサイルの提供は戦争準備に反する動きである等――が示されたが、戦争には至らないまでも南北の軍事的衝突の可能性が高まっているという点で、多くの専門家の2024年の情勢見通しは一致している。本稿では関連する2つのリスクについて検討した上で、それらに対して日本はどう備えるべきか、関係改善が進む韓国との連携を念頭に考えてみたい。

「核のリスク」の意図せぬエスカレーションを防ぐ

 第1に備えるべきは「核のリスク」である。朝鮮半島で核戦争の危険が差し迫っている、ということを言おうとしているのではない。北朝鮮と韓国が共に核使用に関するレトリックとそれに伴う措置を加速化させている中で、この地域の安全保障環境が一層不安定かつ不透明になっており、不測の事態を招きかねない状況にあることを指摘したいのである。

 北朝鮮は21年1月の朝鮮労働党第8回大会でいわゆる国防力強化5カ年計画を採択して核戦力の増強に邁進しており、近年は核兵器の使用を念頭においた言動を繰り返している。12年には既に「核保有国」であることを憲法に明記したが、23年9月の憲法改正では「核兵器の発展を高度化する」ことを盛り込んだ。それに先立つ22年9月には、最高人民会議で核兵器の使用条件などを定めた核戦力政策に関する法令を採択している。

 加えて、金委員長は韓国に対する戦術核の使用をうかがわせる発言を行うようになった。最近では23年12月の大陸間弾道ミサイル「火星砲18」型の発射訓練後に、「敵が核を持って挑発する時には躊躇なく核攻撃も辞さない」との意思を見せたし、……

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
西野純也(にしのじゅんや) 慶應義塾大学法学部政治学科教授、同大学朝鮮半島研究センター長。慶應義塾大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科修士課程卒業、同博士課程単位取得。韓国・延世大学大学院博士課程卒業、政治学博士。専門は現代韓国朝鮮政治、東アジア国際政治、日韓関係。在韓国日本大使館政治部専門調査員、外務省国際情報統括官組織第3国際情報官室専門分析員、ハーバード・エンチン研究所交換研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員(ジャパン・スカラー)、ジョージ・ワシントン大学シグールセンター客員研究員、慶南大学極東問題研究所招聘研究委員、延世大学統一研究院専門研究員などを歴任。著書に、『激動の朝鮮半島を読みとく』(編著、慶應義塾大学出版会、2023年)、『アメリカ太平洋軍の研究』(共著、千倉書房、2018年)、『朝鮮半島の秩序再編』(共編著、慶應義塾大学出版会、2013年)、『転換期の東アジアと北朝鮮問題』(共編著、慶應義塾大学出版会、2012年)など。
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